死刑・厳罰化論議で参考にしていたリベラル系blogにて、死刑積極論への懐疑から「遺骨」鑑定論争へ結び付ける手法があった。
(2006年07月14)女子リベ 安原宏美--編集者のブログ:なお慎重に冷静に考えてみたいと思います。 安原さんの主張は、国家が「被害者」に目を向けることには良い面もあるが、それによって感情的に国民が噴き上がる面もあり、噴き上がった感情が国家に利用されることで覆い隠される事実があるというもの。その事実について話題になることさえ躊躇われる風潮について批判を向けている。一般論としては同意する。けれど、その具体例として挙げられたのは、死刑廃止論議に関するものではなく、日本人拉致事件における「遺骨」鑑定論争だった。そして、リンクされているのは例によって「5号館のつぶやき」さん。そして、そこからさらに「ある警察関係者」が書いたとされる論文を引用して、死刑存廃論へと戻っていく。
こんなニュースがあった。北朝鮮の拉致被害者が北朝鮮に拉致被害者の返還を求める根拠に「骨が偽ものであった」という根拠ある。この根拠そのものであるDNA鑑定について、イギリスの有名な科学誌である「Nature」が疑義を掲載している。果たして日本のマスコミでこれをきちんと取り上げているところはあっただろうか。これかなりな話だと思うけど。いくら世論が北朝鮮がトンデモな国だ!とふきあがっているからって、そこにトンデモな話で対抗していいって話ではないだろう。
「被害者」への感情移入において覆い隠されてしまったもののひとつではないか。
DNA is burning issue as Japan and Korea clash over kidnaps
David Cyranoski
SUMMARY: Cremated remains fail to prove fate of Japanese girl abducted in 1977.
CONTEXT: Tokyo A bitter dispute has erupted between Japan and North Korea over DNA tests used to establish whether cremated remains belong to a Japanese citizen abducted in 1977.
トンデモな話である↓
「Nonetheless Yoshii, who has no previous experience with cremated specimens, admits his tests are not conclusive and that it is possible the samples were contaminated. "The bones are like stiff sponges that can absorb anything. If sweat or oils of someone that was handling them soaked in, it would be impossible to get them out no matter how well they were prepared," he says.」
ちなみにこの経緯をのせてらっしゃるブログ 。
これはある警察関係者が書いている論文の一部である。 2004年の論文です。
「犯罪対策においては、正義の問題を無視することはできない。国民にとって正義感が満足されることは当該政策のひとつとして考えなければならないし、現に大多数の国民から正義に反すると考えられる政策を実施することはできないのであるから、現在の次元での日本の国民の「正義」として考えているのが何であるかを探ることは、可能な政策の枠組みを判断する上で必要である。」
「国民が正義と思ったら正義である。それがたとえ科学的でなくても事実でなくてもいいんです。国民がやってまえと思ってたらやるんです。」ということである。
ひらきなおる警察って怖い。ひらきなおる一般市民たちの警察的視点というのも怖い。ホラーハウス社会がほんとうに化け物を作ってしまう瞬間を見ることにはなりたくないものである。
そういう文脈で「遺骨」鑑定論争を利用するのか、死刑存廃論議・厳罰化論議に日本人拉致事件・「遺骨」鑑定論争が利用するのか、と思った。これがリベラル派のやり方か。なぜ、北朝鮮による国家犯罪である拉致と国内の一刑事事件を混同できるのか。彼女の視点では「ひらきなおる警察って怖い」が、「遺骨」鑑定論争で「ひらきなおる日本政府って怖い」になるのだろう。しかし、遺骨の二度焼きで「ひらきなおる北朝鮮政府って怖い」とはならない。北朝鮮の主張には正義もなければ、科学性もないのだが、それを「事実」として認定することがどういう結果を招くのか、考えたことがあるのだろうか。二度焼きや混ぜ物がなければ「遺骨」鑑定が困難を極めることもなかったのだが。そして、9.17以前まで国家とメディアが覆い隠してきたものには言及さえしない。
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