クローズアップ現代(番組HPより)
8月29日(水)放送
無実の“死刑囚”124人の衝撃
〜えん罪に揺れるアメリカ〜
先進国で死刑制度を持つ数少ない国、
日本とアメリカ─── 。
今その一角アメリカで、死刑宣告を受け服役していた受刑者の無実が相次いで判明し、大きな衝撃が走っている。えん罪を見つけ出しているのは、進化を続けるDNA鑑定の技術。残された微量の証拠品から、事件の真相に迫り始めている。一方、えん罪のない司法制度への模索も進められている。自白の強要など捜査の誤りを無くすため、取調室の一部始終を録画する手法が全米各地の警察に広がり始めている。失墜した司法制度への信頼は取り戻せるか。死刑えん罪に揺れるアメリカの今を見つめる。
(NO.2456)
スタジオゲスト:伊藤 和子さん(弁護士)
2007年8月29日 クローズアップ現代
【スタジオ】
国谷裕子:こんばんは、クローズアップ現代です。多くの無実の人に死刑宣告されていた事態に、アメリカ社会が揺れています。
【冒頭VTR】
死刑囚(字幕):自由だ!
ナレーション:今、アメリカで無実の罪で収監されていた死刑囚などが次々と釈放されています。犯罪者の命を絶つ最も重い刑罰、死刑。続出する冤罪にアメリカ社会が揺れています。
元死刑囚 レイ・クローンさん(字幕):私はいつ死刑になっていてもおかしくなかった。
ナレーション:冤罪の実態を明らかにしたのはNDA鑑定の技術。僅かな証拠から新たな事実が見つけ出されています。
デューク大学 法学部 ジェームス・コールマン教授(字幕):DNA鑑定はアメリカの刑事司法に欠陥があると警告しています。
ナレーション:冤罪をどう防ぐか。捜査手法の見直しも始まっています。無実が明らかになった死刑囚、124人。冤罪を無くすには何が必要か、考えます。
無実の“死刑囚”124人の衝撃 〜えん罪に揺れるアメリカ〜 (NO.2456)
【スタジオ:無実の“死刑囚” 124人の衝撃】
国谷裕子:日本とアメリカは、先進国の中で死刑制度がある数少ない国です。国家が個人の命を奪う死刑。死刑は司法制度への厚い信頼があって、初めて維持されるものです。日本では今月、死刑囚の死刑執行が伝えられています。一方、アメリカでは現在、38の州で死刑制度が設けられています。ところが、裁判で死刑宣告され服役している人が、実は無実であったことが次々と明らかになり、アメリカの司法制度、死刑制度が揺らぐ事態となっているんです。こちら御覧頂きましょう。DNA鑑定の進歩などで冤罪が明らかになった人の数は、25の州で124人にも上っています。
国谷裕子:そして、冤罪の要因が明らかになる中で、捜査現場で自白の強要、そして目撃者の証言の誤りなどが多い実態が浮き彫りになってきたのです。アメリカでは、一般市民が陪審員となって評決を下す訳ですけれども、真相を知り、適切な判断を下すために必要な充分な情報が陪審員に与えられていないケースが多発していたのです。日本でも2年後から裁判員制度がスタートし、私達一般市民が重大事件で被告が無罪か有罪かの判断に関わることになる訳ですけれども、冤罪を防ぐため、冤罪の危険性を取り除くためには、どんなことが求められているのか。今夜はアメリカの実情を通して考えていきます。
【VTR:無実の“死刑囚” 揺れるアメリカ】
ナレーション:アメリカ南部、ジョージア州です。先月、州政府は死刑執行を延期するという異例の声明を発表しました。
州広報官(字幕):委員会は死刑執行の90日間延長を決めました。
ナレーション:州政府は17年前、裁判所が下した死刑判決に疑念が出てきたと判断したのです。一貫して無実を主張してきた囚人とその家族。死刑執行まで24時間。ぎりぎりの局面での決定でした。
死刑囚の姉(字幕):囚人は無実を主張するものだと無視されてきました。誰も真実に関心が無かったのです。
死刑囚(字幕):自由だ!自由になった!
ナレーション:アメリカでは、二月に1件の割合で死刑囚の冤罪が明らかになり、死刑制度そのものへの不信感が高まっています。
女性(字幕):本当の犯人か全力で確認すべき。でなければ死刑は殺人です。
男性(字幕):無実の人が死刑になるくらいなら、死刑を止めた方がましです。死刑はやり直しがききませんから。
ナレーション:こうした中、死刑制度を見直す動きも全米各地で広がっています。31の州議会で死刑の廃止や執行停止を求める法案が提出されました。
ナレーション:その内、8つの州では既に死刑執行を当面停止することを決定しています。
ナレーション:冤罪急増のきっかけとなったのは、急速に技術革新が進んだDNA鑑定です。髪の毛や皮膚が極一部でも残されていれば、個人を特定できるまでに精度が高まったのです。
法医学者 マルシア・アイゼンバーグ博士(吹替):DNA鑑定の技術は年々進歩しています。事件当時は鑑定不可能であった遺留品が、今や証拠になることさえあるのです。
ナレーション:DNA鑑定によって冤罪が明らかになった元死刑囚がいます。レイ・クローンさん、50歳。11年間、アリゾナ州の刑務所に収監されていました。1991年冬、クローンさんの自宅近くのバーで女性店員が暴行され、ナイフで殺害されました。検察は、クローンさんが事件の夜、店にいたという証言や被害者の遺体に残された歯形がクローンさんのものと似ているとして、有罪を主張しました。これに対して、クローンさんの弁護にあたった州の弁護士は、僅かな調査費しか使えず、有効な反論が出来ませんでした。こうした中、陪審員が出した結論は、有罪。裁判所はクローンさんに死刑判決を下したのです。
元死刑囚 レイ・クローンさん(吹替):私が死刑判決を受けたのは、謝罪の態度を示さなかったからです。でも、やっていないのにどうやって示せますか。貴方は生きるに値しない、全てを奪い取る、と宣告されたんですよ。
ナレーション:クローンさんは、いつ訪れるとも知れぬ死刑執行に怯え続けました。刑務所の中から無実を訴えるクローンさんの言葉に、耳を貸す人はいませんでした。クローンさんを支えたのは、毎週送られてくる両親からの手紙でした。
元死刑囚 レイ・クローンさん(吹替):「毎日、お父さんと貴方のことを話しています。貴方は一人じゃありませんよ」。私が刑務所に入っている間は、家族も刑務所に入れられていた様なものです。長い長い年月でした。
ナレーション:クローンさんの無実を証明したのは、殺害現場に残された被害者の遺留品でした。弁護士のアラン・シンプソンさんです。一度も鑑定されないまま保管されていた証拠をDNA鑑定したのです。
弁護士 アラン・シンプソンさん(吹替):殺人事件で必ずやる鑑定を検察はやっていませんでした。何かおかしいと感じました。
ナレーション:アメリカでは、裁判終了後も物的証拠を長期間保存しているケースが殆どです。弁護士が要求すれば、こうした証拠を使ってDNA鑑定することも認められています。シンプソン弁護士の求めで行われたDNA鑑定の結果です。被害者の下着から意外な事実が明らかになりました。被害者の下着に残された血痕。検察側は、被害者自身のもの(血痕)だと説明してきました。しかし、DNA鑑定の結果、下着に付着した血痕は被害者のものではないことが判明したのです。
ナレーション:さらに、そのDNAの型と一致する人物が犯罪データベースに登録されていることも明らかになりました。
ナレーション:その人物は、事件現場の近くに住んでいた男でした。シンプソン弁護士は、別の罪で服役中のこの男に面会し、追及しました。
[音]面会室での会話 弁護士(字幕):君の血液が被害者の下着に付いていた。これは確かな物証だ。DNAのことは聞いたことあるだろう。
[音]面会室での会話 男(字幕):ええ。
[音]面会室での会話 弁護士(字幕):君がやったことで、無実の人が10年も刑務所にいたら、どう思う。
[音]面会室での会話 男(字幕):気の毒だね。
ナレーション:その後、男は殺害を自白。クローンさんは釈放されました。冤罪が明らかになるまで、11年が経っていました。
元死刑囚 レイ・クローンさん(吹替):今はあまり過去を振り返りません。まだ生きてるんですから。でも、その10年間に死んでいた可能性もあったんです。私は、アメリカの司法制度の犠牲者です。
ナレーション:(デューク大学)死刑と冤罪について長年研究してきたジェームス・コールマン教授です。冤罪の背景には、捜査に携わる警察や検察だけでなく、判決を下す裁判所の姿勢にも問題が潜んでいると指摘しています。
デューク大学 法学部 ジェームス・コールマン教授(吹替):毎日、数多くの凶悪犯罪が起きているアメリカでは、警察は犯人を早急に逮捕し、検察はそれを有罪にしなければなりません。そして、裁判官も犯罪に強い姿勢で臨まなければならないというプレッシャーを感じているのです。司法には「疑わしきは罰せず」という大原則がありますが、守られていないのが現実なのです。
【スタジオ:無実の“死刑囚” 揺れるアメリカ】
国谷裕子:スタジオにはアメリカで冤罪の調査を行ない、日本の裁判員制度の設立にも関わってこられました弁護士の伊藤和子さんにお越し頂きました。124人もの無実の人が“死刑囚”になっていた。アメリカ社会が受けた衝撃というのは本当に大きかったでしょうね。
伊藤和子 弁護士:そうですね。あの、アメリカではですね、陪審制というのは非常に信頼が厚いんですね。12人の市民が全員一致で有罪・無罪を決めるという制度ですので、陪審員の声は神の声とも言われていまして、それが間違っているということは殆ど信じられてこなかったんですね。ですので、冤罪ということについて、人々はあまり考えてこなかった。で、そこでDNAなどの動かぬ証拠によって、無実の人が有罪になって死刑棟に送られていた、と。しかも、それが次々とそういうことが判明したというのは、大きなショックを市民に与えている状況です。
国谷裕子:こういう状況では陪審員になりたくないっていう動きはありませんか?
伊藤和子 弁護士:そうですね。あの、特にですね、あの、正しい情報を陪審員が与えられなかった、そしてミスリードされた結果、誤った評決に至ってしまったということが相次いでいたんですね。ですので、そういう状況で司法制度に対する信頼がない下で陪審員になって、そして誤った評決を下してしまう。そういう危険性をですね、感じて、陪審員になりたくないというような声を出している人達もいます。非常に懸念が広がっていまして、一人の冤罪の被害者の方は、自分も冤罪の被害者かもしれない、だけれどもミスリードされて誤った判断をされた陪審員達も司法の犠牲になったんだというようなことを言っていますね。
国谷裕子:まあ、死刑が宣告されて、長い間、服役している人の事件、そのDNAに関する資料が残っていて、進歩したDNA鑑定の技術を使って調べてみたら、無罪が証明された。アメリカではそうしたDNAに関わる資料っていうのは保管されているんですか?
伊藤和子 弁護士:そうですね。あの、特にこの冤罪という問題が、あの、スポットライトを浴びてから、あの、州政府、それから連邦政府も非常に慎重になって、新しいルール作りがされています。その下ではですね、DNAの鑑定資料というものはきちんと保管をしなければならない。そして、被告側にはですね、DNA鑑定を申請する権利が認められているということになっています。そして、あの、再鑑定、あの、科学技術もどんどんどんどん進歩していきますね。ですから、捜査側がやった鑑定に対して再鑑定をしたいという要求もあると思うんですが、その際にですね、そういった再鑑定を保障するために、鑑定資料は必ず保管しておくことということが定められていて、鑑定資料を破棄してしまったという場合は、罰則が科されるということになっています。そういったシステムがもう出来上がっています。
国谷裕子:日本ではどうなんでしょうか?
伊藤和子 弁護士:日本では残念ながらそういったシステムはありませんので、多くのケースでですね、弁護側が再鑑定をしたいという風に望んでも、全ての資料を使い果たしてしまったという様なことを言われる場合が多く、再鑑定の、まあ、途がですね、殆ど、まあ、絶たれているという状況なんですね。しかも、あの、全くですね、罰則も科されていないという状況です。
国谷裕子:まあ、アメリカでこのようにDNA鑑定義実が進歩して、まあ、DNAの鑑定を受ける権利がこう保障されるようになると、冤罪というのはこう、無くなっていく方向にあると見てらっしゃいますか?
伊藤和子 弁護士:中々そうは言えないという状況ではないかなという風に思います。と言いますのも、無実が明らかになった124人のケースがありますけれども、その内ですね、まあ、DNA鑑定で無実が明らかになったという人達というのは、実は15%に過ぎないというのが実情なんですね。
国谷裕子:はい。
伊藤和子 弁護士:で、本当言いますとですね、あの、誤った捜査によってですね、まあ、真実が歪められてしまっているという問題がありますので、そういったところでですね、きちんと解決をしていくということが必要になっていくと思うんですね。
国谷裕子:で、実際に、その、冤罪の要因になっているのが、この内訳ですよね。
伊藤和子 弁護士:そうですね。まあ、大きなところで見て頂くと分かりますけれども、人物特定の誤りというのがあります。これは目撃証言ですね。犯罪を目撃した人というのがいますけれども、そういう人達がですね、まあ、あの、まあ、証人がですね、犯人を特定する際に、誤った特定をしてしまうということが、非常に多いということですね。で、もう一つは、自白の強要ということなんですけれども、あの、アメリカの刑事司法ではですね、被告人の権利ってすごく認められていると思われていたんですけれども、あの、実際には、こういう19%も自白が強要されているというのは、非常にですね、ショッキングな数字だと思うんですね。
国谷裕子:はい。捜査段階で起きている、この冤罪。この冤罪をどう防ぐのか、ノースキャロライナ州で行なわれている模索を御覧頂きます。
【VTR:目的証言の落とし穴】
ナレーション:ノースカロライナ州に住むジェニファー・トンプソンさん。22歳の時、自宅で暴行事件の被害に遭いました。深夜、寝ていたところを押し入ってきた男に突然暴行され、金品を奪われたのです。警察はすぐに容疑者を割り出しましたが、確かな物的証拠は掴んでいませんでした。そこで警察は、トンプソンさんに証言を求めました。容疑者を含む6人の写真を見せ、加害者を選ぶように求めたのです。
[声]ジェニファー・トンプソンさん(吹替):私はすぐに4人を除外しました。残った2人の写真を見つめていると、その内の1人が、私をレイプした犯人に見えてきました。写真の中にレイプ犯がいなければ、警察がわざわざ私を呼び出すはずはない、と思っていたのです。
ナレーション:トンプソンさんの証言が決め手となり、男は起訴され、終身刑の判決が下されたのです。しかし、判決から11年後、トンプソンさんの元に信じられない報せが届きました。真犯人がDNA鑑定で見つかったというのです。
ニュース番組にて 裁判官(字幕):あなたは自由の身になりました。(判決を聞いて母親らしき人物と抱き合う元囚人)
ナレーション:トンプソンさんがニュース番組で目にしたのは、自分の証言が基で刑務所に送られた男が釈放される姿でした。一人の男性の人生を変えてしまった。トンプソンさんは、強い罪悪感に苛まれました。
[声]ジェニファー・トンプソンさん(吹替):悪意はありませんでした。でも、彼を有罪にしたのは私なんです。私の証言以外に、証拠は殆どなかったからです。何故、この様なことが起きてしまったか、恐ろしい間違いをしてしまったと、長い間、悔やみました。
【VTR:えん罪を防げ】
ナレーション:冤罪に繋がる人物特定の誤りは、何故、起きるのか。(アメリカ司法協会)科学捜査の在り方について研究しているマット・エプスタインさんです。エプスタインさんは、警察の捜査手法に落とし穴が潜んでいると考えています。複数の写真を同時に見せられると、犯人はいないと思っても、無意識に一番似ている人を選んでしまう危険性があると言います。
科学捜査・社会政策部 マット・エプスタインさん(吹替):証言者は、犯人がいないと思ったら、「ここにはいない」と言うべきなのです。しかし、犯人を見つけたいという心理状態に置かれているため、「いない」とは中々言えないものなのです。
ナレーション:こうした、思い込みによる間違いを減らすため、エプスタインさん達は、コンピューターを利用した操作方法を研究しています。複数の写真を同時に見せず、一枚ずつ見せ、その人物に見覚えがあるか、判断を求めます。どの人物で迷ったのか、判断の過程は全て記録されます。
ナレーション:さらに、どれくらい確信を持っているのか見極めるため、判断に要した時間も計測されます。
ナレーション:このコンピューターシステムで、間違った人を選ぶ可能性は10%近く減ると見られています。
科学捜査・社会政策部 マット・エプスタインさん(吹替):このシステムを使えば、目撃者がどれくらい確信を持って容疑者を選んだのか、その情報を陪審員に伝えることが出来ます。これによって冤罪の可能性を減らせるはずです。
ナレーション:冤罪の要因として2番目に高い自白の強要を防ぐ取り組みも始まっています。
ナレーション:(シャーロット警察署)ノースカロライナ州では、先月、警察の取調室にカメラの設置を義務付けました。殺人事件の容疑者が取調室に入った時から、録画は開始されます。
シャーロット警察 ポール・ジンカン警部(字幕):ここですべての取調室の様子が録画されています。
ナレーション:取調室の映像と音声は、全てハードディスクに記録。容疑者が基礎された場合には、証拠として裁判所に提出されます。
シャーロット警察 ポール・ジンカン警部(吹替):容疑者の間違った自白が、警察官の脅迫や誘導で引き出されることは確かにあります。取調べの一部始終が録画されることで、自白の強要を防ぐことが出来るのです。
ナレーション:警察は当初、捜査に支障をきたすとして、カメラの導入には反対しましたが、今ではメリットもあると考えています。
シャーロット警察 ポール・ジンカン警部(吹替):容疑者の自白が、自らの意思で行なわれたことを録画によって示せます。法廷で弁護側から、自白の強要があったと指摘されても反論することが出来るのです。
【スタジオ:えん罪をどう防ぐか】
国谷裕子:まあ、ノースキャロライナでは、冤罪の危険を無くそうということで、全ての取調室でのやり取りを録画しようということですけど、日本でも現在、その、自白の部分、取調室での様子を録画しようという議論が始まっていますよね。あの、どのように、この議論、考えたらいいんでしょうか。
伊藤和子 弁護士:はい。あの、そうですね、それは一歩前進であるんですけれども、他方で、危険な面もあります。と言いますのは、例えば、イリノイ州、ニューヨーク州などではですね、やはり自白の部分だけをですね、録音・録画する、と。そして、それを証拠に出すというシステムを持っていたんですけれども、その結果ですね、実は、あの、自白の過程でですね、プロセスのところで、強引な取調べをされている。その部分が全く隠されたまま、自白の部分が証拠とされて、陪審員がそれを見て、「ああ、この人は間違いない」ということで有罪にしてしまうというケースが多かったんですね。ですので、日本でも、自白の部分だけを録音・録画するということでは、捜査段階の問題というのがですね、防げないと思うんですね。特に日本ではですね、アメリカではですね、取調期間2日くらいなんですけれども、(日本では)23日間取調べをすることが出来るということで、プレッシャーも非常に大きいですので、取調べの最初から最後まで、取調べの可視化、録音・録画は出来るということが、非常に重要だと思います。
国谷裕子:まあ、日本では2年後、裁判員制度が導入されて、まあ、自分も、その、裁判員に選ばれる可能性がある。その中で冤罪という危険性に巻き込まれないため、にするために、制度として、今、何をやるべきだとお考えですか。
伊藤和子 弁護士:はい。やはり、あの、日本では自白というのは重要な証拠だと思われてますので、取調べの可視化をするということは大事だと思います。で、もう一つはですね、あの、ノースカロライナでもそうですけども、日本でもそうですが、被告人に有利な証拠、例えばアリバイ証拠などがですね、隠されているということがあるんですね。で、検察側の持っている証拠全てをですね、弁護側に公判の前に開示する。そのことによって、陪審員、裁判員も全ての証拠を見ることが出来るようになると思いますので、全面的な証拠の開示ということが重要だと思います。もう一つ、大事なことはですね、推定無罪という原則をですね、きちんと話すということですね。「疑わしきは被告人の利益に」ということを、裁判員制度が始まったら、裁判官が裁判員にきちんと告げてくれると、出来れば公開法廷で説明してくれるということが、冤罪を防ぐ、セーフガードとして大事だという風に思います。
国谷裕子:はい。ありがとうございました。伊藤和子さんと共に、冤罪の危険をどう取り除くのか、アメリカの実情を通して考えて参りました。これで失礼致します。
【25分57秒】
※この日記は10月19日23時50分頃に公開しました。
(2007年12月25日)朝日:進む科学捜査 端緒のDNAデータベース 梅田殺人事件
http://www.asahi.com/national/update/1225/OSK200712250061.html
(前略)
国内のDNA型鑑定は89年に始まった。警察庁によると、当時は「94人に1人」を見分ける程度の精度しかなく、事件捜査でも補助的な役割だった。しかし現在は「4兆7000億人に1人」と、理論上は地球上の全人口(約66億人)を1人ずつ識別できるまでに精度が上がり、微量の試料で鑑定が可能になった。
警察庁は05年9月、事件現場などから採取したDNA型を登録するデータベースの運用を開始。今年11月末現在、逮捕した容疑者のDNA型は1万4949件、血液や毛髪などの遺留物のものは9104件が登録されている。このシステムにより、これまで189人の容疑者を特定。また1957件の余罪を容疑者と結びつけた。
DNA型鑑定を巡っては、警視庁が05年、発生から14年経過した東京都足立区の男性殺害事件で、冷凍保存していた血液のDNA型から容疑者を割り出した。また最高裁は00年7月、栃木県足利市で90年5月に起きた保育園児殺害事件で、DNA型鑑定の証拠能力を認める初判断を示し、刑事裁判でも決定的な証拠となりつつある。
この回の内容をどうしても知りたかったので大変感謝しています。
疑わしきは罰せず、こんな大原則が適用されていないのは全く許しがたい話です。冤罪の犯人に証拠などあるはずがないのですから、本来は充分疑わしいはずです。原則を適用すればいいだけの話なのに、死刑にされるというのは恐ろしすぎる社会です。
番組ではアメリカの事例が取り上げられていましたが、最近の国内世論の厳罰化への要望の強まりを考えると、他所事ではありませんね。世の厳罰化への流れが被害者重視の観点から来るものであれば、当然、冤罪被害者への眼差しも備えているはずなのですが、ネット上での議論を見る限り、冤罪被害については、せいぜい自説の冒頭で少し触れられる程度です。一言、冤罪の危険について触れておけば自説の客観性・中立性が担保されるかのような扱いです。テキスト起こしは地味で面倒な作業ですが、今のそうした言論状況に多少なりとも変化を与えられれば、と思います。