2007年07月02日

刑事弁護人の懲戒請求について

 光市母子殺害事件をめぐるネット上の議論については過去に一度書きましたが、あれから約一年が過ぎ、現在、ネット上では刑事弁護人の懲戒請求運動が話題になっています。これについて、少し思うところを書こうと思います。

 私は、たとえ安田弁護士の弁護手法に怪訝なものを感じたとしても、それでもなお刑事弁護人の地位は守られるべきであると考えますが、もし、懲戒請求を行なうのであれば『21人の弁護士に懲戒請求を求める ---光市母子殺害事件--- @ ウィキ』(以下、『@ ウィキ』)のような大雑把な手法とは一線を画した方が良いと思います。『@ ウィキ』のどの点が問題なのかについては、既に他所でも指摘されているので、私からは一点のみ指摘しておきます。


【目次】
1.懲戒請求と弁護士法について思うこと
2.『@ ウィキ』について思うこと
3.紀藤弁護士の文章について思うこと
4.名塚さんの日記について思うこと(7月12日22時00分頃追記)
5.平成19年4月24日判決からの引用(8月11日14時00分頃追記)
6.橋下徹弁護士が提訴されたことについて(9月8日12時30分頃追記)
7.懲戒請求騒動のその後(10月13日2時30分頃追記)


1.懲戒請求と弁護士法について思うこと

 『@ ウィキ』の内容に触れる前に、懲戒請求と弁護士法について思うところを書きます。

 弁護士法第58条には「懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて」とあります。懲戒請求には、その理由の説明が必要ということです。「懲戒事由」の内容については、同法第56条に規定に4つの類型が示されています。弁護士法違反、弁護士会の会則違反、所属弁護士会の秩序又は信用の侵害、品位を失うべき非行の4類型です。
(懲戒の請求、調査及び審査)
第58条 何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。

(懲戒事由及び懲戒権者)
第56条 弁護士及び弁護士法人は、この法律又は所属弁護士会若しくは日本弁護士連合会の会則に違反し、所属弁護士会の秩序又は信用を害し、その他職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたときは、懲戒を受ける。

 懲戒請求しようと思っている人達は、この「所属弁護士会の秩序又は信用を害し」や「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行」を根拠とするのでしょうが、弁護団のどのような行為がそれに該当するかを具体的に示さなければ、(後述の裁判例との関係で)おそらく通用しません。

 「具体的に」といっても、ただ示せばいいというものではなく、弁護側の「死者を蘇生させる行為」「ままごと遊び」「蝶々結び」などの発言は、それ自体は噴飯ものですが、(未だ裁判所によって認定されていない)一方当事者における主張であって、それも各弁護士の入れ知恵なのか被告人がそう主張するように言って曲げなかったのかどうかもはっきりしない事柄です。これに対する感情的反発では、懲戒事由にはあたらないでしょう。訴訟遅延という理由に関しても「○○のような行為は〜としか思えない」というような推論では相手にされないと思います。

 本件裁判を抜きにしても、現状では刑事弁護に対する誤解と偏見に基づくバッシングが絶えないのに、もし仮に、このような抽象的な論拠や推論で刑事弁護人の懲戒請求が認められるとなると、今後、凶悪犯罪の刑事弁護の引き受け手は減少するという事態も想定されますし(※1)、本請求が先例となれば、当事者の一方に肩入れする人達が相手の言質を取って裁判外から裁判に影響を与えようということにもなりかねません(裁判官が影響を受けることはないでしょうが、弁護側の心理的負担、訴訟準備などに影響する可能性があります)。そして、そのような先例は主義主張を同じくする者だけが独占的に使えるものではないでしょうから(※2)、司法に政治闘争を持ち込むことになりはしないかと危惧します。

※1 分野は違いますが、例えば近年の産婦人科医、小児科医の減少が参考になります。

※2 ある制度・先例が出来ると、主義主張を異にする双方の陣営がこれを利用するという構図はよくあることです。分野は違いますが、例えば(1)非拘束名簿式比例代表制になればタレント議員が増加すると批判していた政党が、同制度施行後にタレント議員を擁立したこと、(2)教科書検定に際して、文部科学省が諸説配慮を求める検定意見を付けたら、この『諸説配慮』が現政権と思想を異にする人達にも利用されたことなどが挙げられます。勿論、現政権と思想を同じくする人達が利用するということも考えられます。


2.『@ ウィキ』について思うこと

 前置きが長くなりました。以下、『@ ウィキ』についての雑感を書きます。

 『@ ウィキ』の概要には、弁護団に所属する21人全員の氏名が曝された上で懲戒請求が提案されていますが、本件に関するこれまでの報道からは足立・安田両弁護士の弁護手法はある程度分かっても、他19名の弁護手法の詳細は分かりません。判決が出た後であれば、法廷内での各弁護士の弁論内容が法律系雑誌に掲載され(例えば、2006年版『年報・死刑廃止』には光市事件最高裁での両当事者の弁論要旨と判決内容が記載されています)、そこから誰がどのような弁護をしたか判断できますが、差し戻し控訴審後に集まった他19名に対しては、弁護への関わり方も弁護手法も現時点では何も分かりません。分からない内は他19名に対しての懲戒請求は難しいと思います。

 差し戻し控訴審後に集まった弁護士達には、最高裁までの「訴訟遅延のための欠席戦術」という理由も該当しません。21人全員を十把一絡げに懲戒請求するような事由は、おそらく請求者の誰にも現時点では提示できないでしょう。にもかかわらず、『@ ウィキ』では21人全員が一括りされています。このことからは、足立・安田両弁護士に組みすれば、皆一緒くたに糾弾するという連座責任の発想が垣間見えます。でなければ、一人一人につき根拠を精査するはずです。そして、日弁連のような組織が、個々の弁護士への具体的な根拠もなく連座的に処罰するようなことは考えにくいです。

 確かに、国民には弁護士懲戒請求権が認められていますが、権利の行使には権利濫用という問題がつきものです。その請求が権利濫用にあたるかは請求権者が判断する事柄ではないので(請求権者≠判断権者)、請求権行使に懲戒事由を欠いていたが為に権利濫用にあたると看做される場合もあります。根拠の薄い懲戒請求が繰り返されれば、それがたとえ国民に認められた権利であったとしても、権利濫用にあたるとして損害賠償請求される可能性はあります。現時点でその可能性は低いと思いますが、過去には弁護士懲戒請求が不法行為にあたるとした裁判例もあります。今回の事例とは訳が違うと考える方もいるかもしれませんが、具体的事案に当て嵌めるまでの論拠は、一般論として本件懲戒請求を考える上でも参考になります。

最高裁平成19年4月24日判決(pdf)

 本来ならば、真正面から刑事弁護人の地位を守ることの重要性を説くのが、正論であり正道であると思いますが、今のネット上の言論を見ていると、刑事弁護人の地位の重要性について頭では理解しているであろう人達でさえも、弁護団の主張や弁護手法への憤りが昂じて、この点を軽視しているかのような言動をしています。おそらく、光市母子殺害事件とその裁判の経過に憤りを覚えている人達の激情の前では、そのような論法では理解が得られないだろうとも思います。それならば、せめて、現実主義的なアプローチだけでも堅持して頂きたく思います。

 ネット上での批判という言論活動を超えて、権利行使という実力行為に出る以上は、自らの側のコストとリスクを正しく認識し、かつ、そのリスクを低減するように努めるべきであると考えます。行動を起こすのであれば、せめて、その前に理論武装は充分に行なうべきです。戦略も戦術も無く火中に飛び込むのは、相手の善意を前提にして闘争を挑むようなものです。それは相手に自らの生殺与奪の権を握らせるようなものです。あの大雑把な『@ ウィキ』と行動を共にすることはオススメしません。


上記の内容は、当初は6月21日に公開予定でしたが、あれこれと躊躇うところがあって、一度ボツにしました。今回、紀藤弁護士の文章を読んで、公開しようと思い、加筆しました。次段落以降が加筆分です。なお、現在、『@ ウィキ』は既に削除されていますが、ミラーサイトはあるようです。『@ ウィキ』削除とミラーの存在は、懲戒請求を推進していた人達なら、多分知っているでしょう。しかし、ある時期まで懲戒請求を薦めていたブロガーや『@ ウィキ』にリンクしていたブロガーも、(私が見た限りでは)現在は殆ど『@ ウィキ』のその後について言及しておらず、ミラーへのリンクもしていません。


3.紀藤弁護士の文章について思うこと

(2007年07月01日)弁護士紀藤正樹のLINC TOP NEWS−BLOG版:ゲッペルス?→ゲッベルス

 唐突なゲッベルスのflash紹介で始まって、戦前のことや光市事件訴訟に触れ、日弁連へ届いた脅迫状の記事を引用し、最後に個人の日記にリンクだけして終わる、現役弁護士の方にこういう文章を書かれると気味が悪いです。何故、紀藤弁護士が言葉を尽くして説明されないのか、私には理解できません。

 刑事弁護人の懲戒請求運動が業務妨害に当たるかは、弁護士法第58条の「懲戒事由」を備えているかどうかによります。個々の請求が「懲戒事由」を備えていないのであれば、権利濫用として不法行為責任(民法709条)を問われる場合があります。その懲戒請求が虚偽の事由に基づく場合、刑法には虚偽告訴罪(刑法172条)がありますが、弁護士会への懲戒請求が同条の「告訴、告発その他の申告」に該当するかは私には分かりません。も同条の「告訴、告発その他の申告」に該当すると田原睦夫裁判官が平成19年4月24日判決の補足意見にて述べています。名誉毀損罪(刑法230条)の場合は、真実性の証明による免責が得られず、事実を真実と誤認するに足る相当の客観的状況が存在しない場合に、故意が認められ処罰の対象になり得ます。

 紀藤氏の「民事的」「刑事的」という言葉は、これらを指してのことだと思います。現実的に注意すべきは前者、不法行為による損害賠償請求の可能性でしょうか。個々の請求が「懲戒事由」を備えているかどうかは、請求した人達と請求を受理した弁護士会にしか分かりませんが、私見では削除された『@ ウィキ』の懲戒請求テンプレがあまりに稚拙で、「懲戒事由」の要件を備えていないので、あれを基にしているのであれば、その人達に関しては民事上の責任を問われる可能性が一切無いとは言えません。『@ ウィキ』の中の人は、おそらく、その稚拙さに気付いたか、指摘されて削除したのではないかと思います。


4.名塚さんの日記について思うこと(7月12日22時00分頃追記)

(2007年07月08日)あんた何様?日記:ネットの“祭り”が暴走する

 名塚さんの日記で、本エントリーと7月8日のエントリーを取り上げて頂きました。ありがとうございました。弁護団の懲戒請求については、名塚さんや橋下弁護士の意図するところを超えて、“祭り”になってしまったのだと思います。ネット世論の激情は時に暴走します。その中で、一部の不心得者が脅迫状を送るに至ったのでしょう。

 私は、名塚さんが懲戒請求に関する過去の日記を削除することについて、それを「逃げ」とも「卑怯」とも思いません。当初は予期しなかった方向へ物事が進むということは現実には間々ありますし、(書き手の文責とは別に)読み手の行動の責任は基本的に読み手個人にあり、読み手一人一人の行動を事前に予測しなければならないというのは酷です。また、書き手を煽るコメンター、諫言しない読み手の問題もあります。ネット世論の激情の前に怯んで、躊躇ってしまったという点では、私も注意喚起できなかった読み手の一人です。

 人は誰しも完璧ではありません。誤りを犯さない者などいないでしょう。当初予期しなかったことも起こるものです。情報を日々更新し、その情報から得られる幾つかの仮説を予断無く見つめ、必要とあれば事情を説明した上で前言を撤回することは潔い姿勢であると考えます。とりわけ、一旦判断し、行動したことを撤回するのには勇気が要ります。私は、名塚さんの決断に敬意を表します。

 もし、この件に関して、「逃げ」や「卑怯」と評すべき者がいるとすれば、それは『@ ウィキ』の中の人です。彼(or彼女)は、『@ ウィキ』を削除するにあたって、削除に至った理由を一切説明しませんでした。そのため、圧力をかけられて閉鎖に追い込まれたのではないかといった憶測を呼び、ミラーサイトが作られました。結果として、ミラーサイト作成者やそこのテンプレを使用して懲戒請求をした人達は、事情を知る機会を失いました。

 しかし、今になって『@ ウィキ』の中の人を非難してみても、あまり生産的ではありません。この懲戒請求運動を消費した人で、今になって橋下弁護士に責任を押し付ける人達もいますが、それではネット世論が無責任であると白状するようなものです。誰かを批判するよりも前に、刑事弁護人の地位について冷静に考えることが重要であると考えます。本件裁判の被告人の言い分に憤りを覚えた方は、それをネット上で表明するだけに留めず、刑事弁護人の地位や職業としての弁護士について今一度考察する機会となれば、今回の“祭り”からも学べるものはあると思います。


5.平成19年4月24日判決からの引用(8月11日14時00分頃追記)

 平成19年4月24日判決から、違法な懲戒請求が不法行為を構成する点についての説明部分を引用します。
(1)本件懲戒請求等について

 ア 弁護士法58条1項は、「何人も、弁護士又は弁護士法人について懲戒の事由があると思料するときは、その事由の説明を添えて、その弁護士又は弁護士法人の所属弁護士会にこれを懲戒することを求めることができる。」と規定する。これは、広く一般の人々に対し懲戒請求権を認めることにより、自治的団体である弁護士会に与えられた自律的懲戒権限が適正に行使され、その制度が公正に運用されることを期したものと解される。しかしながら、他方、懲戒請求を受けた弁護士は、根拠のない請求により名誉、信用等を不当に侵害されるおそれがあり、また、その弁明を余儀なくされる負担を負うことになる。そして、同項が、請求者に対し恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定でないことは明らかであるから、同項に基づく請求をする者は、懲戒請求を受ける対象者の利益が不当に侵害されることがないように、対象者に懲戒事由があることを事実上及び法律上裏付ける相当な根拠について調査、検討をすべき義務を負うものというべきである。そうすると、同項に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。

(後略)

 田原睦夫裁判官の補足意見から虚偽告訴罪に関する部分を引用します。
(前略)

 このように、弁護士法の定める弁護士懲戒制度は、弁護士自治を支える重要な機能を有しているのであって、その懲戒権は、適宜に適正な行使が求められるのであり、その行使の懈怠は、弁護士活動に対する国民の信頼を損ないかねず、他方、その濫用は、弁護士に求められている社会正義の実現を図る活動を抑圧することとなり、弁護士会による自縄自縛的な事態を招きかねないのである。

 以上のとおり、弁護士懲戒制度は、弁護士の活動との関係で重要な機能を果たす制度であるが、懲戒を受ける個々の弁護士にとっては、業務停止以上の懲戒を受けると、その間一切の弁護士としての業務を行うことができず(業務停止期間中に弁護士としての業務を行うと、いわゆる非弁活動として刑事罰にも問われ得る。)、それに伴ってその間収入の途を絶たれることとなり、また戒告処分を受けると、その事実は、官報に掲載されるとともに各弁護士会の規定に則って公表されるほか、日本弁護士連合会の発行する機関誌に登載され、場合によってはマスコミにより報道されるのであって、それに伴い当該弁護士に対する社会的な信頼を揺るがし、その業務に重大な影響をもたらすのである。

 弁護士に対する懲戒は、その弁護士が弁護士法や弁護士会規則に違反するという弁護士としてあるまじき行為を行ったことを意味するのであって、弁護士としての社会的信用を根底から覆しかねないものであるだけに、懲戒事由に該当しない事由に基づくものであっても、懲戒請求がなされたという事実が第三者に知れるだけでも、その請求を受けた弁護士の業務上の信用や社会的信用に大きな影響を与えるおそれがあるのである。このように懲戒請求がなされることによる影響が非常に大きいところから、虚偽の事由に基いて懲戒請求をなした場合には、虚偽告訴罪(刑法172条)に該当すると解されている。

 弁護士に対して懲戒請求がなされると、その請求を受けた弁護士会では、綱紀委員会において調査が開始されるが、被請求者たる弁護士は、その請求が全く根拠のないものであってもそれに対する反論や反証活動のために相当なエネルギーを割かれるとともに、たとえ根拠のない懲戒請求であっても、請求がなされた事実が外部に知られた場合には、それにより生じ得る誤解を解くためにも、相当のエネルギーを投じざるを得なくなり、それだけでも相当の負担となる。

(後略)

 その他の点については判決要旨にて御確認下さい。


6.橋下徹弁護士が提訴されたことについて(9月8日12時30分頃追記)

 今月3日、差戻控訴審の弁護人を務める今枝仁弁護士ら広島弁護士会所属の4名の弁護士が、テレビ番組(読売テレビ『たかじんのそこまで言って委員会』)での橋下徹弁護士の発言によって、弁護士業務に支障を来したとして、1人当たり300万円の損害賠償請求訴訟を広島地裁に起こしました。この件について思うところを少し書いておきます。某匿名巨大掲示板での反応については、下記リンク先にて御確認下さい。

(2007年09月05日)痛いニュース(ノ∀`):【母子惨殺】 弁護士ら 「橋下弁護士、業界の笑い者」「懲戒請求した人達、彼にそそのかされた被害者だから今は提訴しない」
※それはそうと上記リンク先、訴状に書かれているという橋下弁護士の問題発言があった放送回というのは、5月23日(水)ではなく、5月27日(日)ですね。この番組の収録日は、放送日の二日前だから25日(金)。細かいことですが、放送日という調べれば分かる基本的事項に誤りがあるというのは、メディア報道としてどうなのでしょうか、J-CASTニュースさん。

 刑事弁護人は世論や「世間の声」と対立してでも被告人の利益を考えて弁護するべきですが、他方では何故その他の弁護士や法律家は法律の素人である一般国民に対して、刑事弁護人の地位について(煽りや皮肉抜きに)丁寧に伝えようとしないのか、というのが紀藤弁護士のエントリーや橋下弁護士の当初の発言に感じたことです。一見遠回りであったとしてもそのように伝えていくことで、事件への憤りや被害者遺族への同情と並立して刑事裁判への理解が深まることを期待したのですが、結局、今枝弁護士らが橋下弁護士を提訴し、橋下弁護士がそれに応じて反論していくという事態になりました。法廷で争うこと、闘争でしか伝えられないことなのか、という落胆があります。

 また、懲戒請求制度について伝えておきながら、そのリスクやコストについては説明を怠った橋下弁護士が批判されるのは当然ですが、テレビ番組にてそのような制度があることを紹介し懲戒請求を呼びかけた人物を「扇動者」として提訴するならば、懲戒事由の雛形をテンプレートという形で多くの人に提供した「@ウィキ」やそのミラーサイトの管理者達が提訴されないというのは納得し難いものがあります。橋下弁護士を訴えるというのは弁護士対弁護士という点ではフェアであるとも言えますが、テンプレートでなされた懲戒請求はおそらく殆どが同一の内容になっているであろうこと、そしてその内容には橋下弁護士は関与していないことを考えると、その責を橋下弁護士に負わせるのは筋が違うように思います。約3900件の懲戒請求を可能にしたのは「@ウィキ」やそのミラーサイトのテンプレートの存在であり、それにより前例のない多数の懲戒請求がなされて業務が妨害されたのですから。

 今枝弁護士らは煽られて懲戒請求した人達については「橋下弁護士にそそのかされ、被害者的な面もある」と温情的に見ているようですが、ネット上の懲戒請求運動を具体的手法と伴に煽動した人達について提訴しないのであれば、橋下弁護士もまた提訴には値しないのではないか、それは言論の自由市場にて対抗言論によって淘汰されるべき事柄ではないのか、と思います。

 朝日新聞9月6日木曜日夕刊1面に学者のコメントが載っていました。短い内容なので全文掲載とします。
双方に理屈ある

 亀山継夫・東海大法科大学院教授(刑法学)の話 双方に理屈があり、法律的に荒唐無稽な争いとは言えなさそうだ。死刑を避けるため、弁護士ができる限りの戦術を考えるのはある意味当然のこと。しかし、今回、変遷した被告側の主張に対して常識的に無理があると考える人が多いのも事実だろう。世間が橋下弁護士の発言に公益性があると判断するのであれば、懲戒請求自体は甘受せざるを得ないだろう。


個人攻撃の恐れ

 メディア問題に詳しい桂敬一・元立正大教授(ジャーナリズム論)の話 同じ法律家として刑事弁護に問題があると考えるならば、まず「職業集団」である弁護士会内で主張するべきだった。現代社会では、メディアを通した不用意な発言は火を付けたように燃え広がり、行き場のない市民の怒りは個人攻撃につながりやすい。社会的正義を問うつもりだったのかもしれないが、その危険性を認識していたかは極めて疑問だ。

※弁護団側の言い分
(2007年09月03日)情報流通促進計画 by ヤメ記者弁護士(ヤメ蚊):光事件Q&A〜弁護団への疑問に答える〜光事件弁護団
(2007年09月06日)弁護士のため息:今枝仁弁護士(光市事件弁護団の一人、橋下弁護士を提訴した原告の一人)の説明

※橋下弁護士側の言い分
(2007年09月07日)橋下徹のLawyer’s EYE:私が提訴されたことにつきまして
(2007年09月07日)橋下徹のLawyer’s EYE:私から皆様へのお願い
(2007年09月07日)橋下徹のLawyer’s EYE:光市母子殺害事件弁護団に懲戒請求された方へ
(2007年09月08日)橋下徹のLawyer’s EYE:光市母子殺害事件弁護団に懲戒請求された方へ

(2007年09月07日)元検弁護士のつぶやき:刑事弁護について


7.懲戒請求騒動のその後(10月13日2時30分頃追記)

(2007年10月11日)( ;^ω^)<へいわぼけ:【光母子殺害】ついに弁護団が懲戒請求した一般人に脅し文書を送り付け始めた件
(2007年10月11日)はてなブックマーク:噂とあの話題板 No_846514  光市の弁護団に懲戒請求を出したら

 一般懲戒請求者に対して、光市弁護団から釈明請求がなされました。請求者の間に戸惑いと怒りが表れているようですが、このような思いはどこに向かうのでしょうか。先ずは光市事件弁護団に向かうでしょう。その次には橋下弁護士に向かうのかもしれません。しかし、よく考えて欲しいのは、私が本エントリーの第2項で指摘した『差し戻し控訴審後に集まった弁護士達には、最高裁までの「訴訟遅延のための欠席戦術」という理由も該当しません。』という点は、法律の知識がなくとも、刑自称制度への理解がなくとも、時系列を確かめれば明らかでした。誰かに怒りを向けるよりも、よく自省して下さい。


求釈明書に対する橋下、今枝両弁護士の見解(14日13時30分頃追記)

(2007年10月13日)橋下徹のLawyer’s EYE:緊急!!今枝弁護士より求釈明書を受領した方へ(1)
(2007年10月13日)橋下徹のLawyer’s EYE:緊急!!今枝弁護士より求釈明書を受領した方へ(2)
(2007年10月14日)弁護士・未熟な人間・今枝仁:◆橋下弁護士の詭弁 根拠のない主張を鵜呑みにしないこと
(2007年10月14日)弁護士・未熟な人間・今枝仁:◆橋下弁護士の詭弁 前提事実のすり替えを鵜呑みにしないこと
(2007年10月14日)元検弁護士のつぶやき:橋下ブログを読んだ懲戒請求者の皆さんへ
posted by sok at 12:30| Comment(6) | TrackBack(0) | 光市母子殺害事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
弁護士に対する懲戒請求も虚偽告訴罪の対象になります。平成19年4月24日判決の補足意見をお読みください。
Posted by 院生 at 2007年08月01日 23:55
 院生さん、コメントありがとうございます。

 私事で7月末頃からブログを放置しており、返事が遅れてしまいました。申し訳ありません。
 御指摘の田原睦夫裁判官の補足意見について、本文の記述を訂正しておきます。
Posted by sok at 2007年08月11日 12:51
いつもHPではお世話になっております。
今日の今日(9月7日)まで私の日記について
追記していたことを知りませんでした…。
申し訳ありませんでした。
sokさまに評価していただけたこと感謝しております。
ありがとうございました。
Posted by 名塚元哉 at 2007年09月07日 22:26
 名塚さん、コメントありがとうございます。昨日の日記で取り上げて頂いたこと、ありがとうございました。

 拙ブログでは、記事数ばかりが増えても管理しにくいので基本的には追記形式にしています。追記が増えたので目次を付けてみたのですが、これだとRSS等で充分に通知されず分かりにくかったかもしれません。橋下弁護士が提訴された件についても、現時点での感想を本文に追記形式で載せておきました。
Posted by sok at 2007年09月08日 13:02
 wikiの中の人を探し出すのは労力がかかりすぎると思われますし、それだけの労力をかけても損害賠償の額が増えるとも刑事弁護が理解されるとも思えません。
 また懲戒請求をするということであれば日弁連や弁護士会のHPに行けば方策は容易に理解できることですから、wikiの人なくして懲戒請求ができないという関係にはたたないでしょう。
 
 懲戒請求による場合、例え橋下弁護士が懲戒されても弁護士会内部の庇いあいだと思われるでしょうから、裁判所を味方につけるのが妥当だと思います。
 橋下弁護士一人を訴えるという作戦は、合理的なものだと思います。
Posted by 院生 at 2007年09月08日 22:24
 院生さん、コメントありがとうございます。返事を書いているうちに少し長文になりましたので、下記エントリーの前半部分にて思うところを書いておきました。御確認下さい。

橋下弁護士が提訴された件について
http://sok-sok.seesaa.net/article/54561055.html
Posted by sok at 2007年09月09日 13:49
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