2007年06月09日

青森県深浦港脱北者4名漂着問題に関する報道メモ3

 前々回前回に続き、青森県深浦港脱北者4名漂着問題。本稿では6月7日以降の各報道を眺めて見る。(1)6月7日発売の『週刊新潮』と『週刊文春』から、(2)漆間巌警察庁長官の記者会見、(3)7午後3時半頃に北海道松前町江良漁港沖合に漂着した無人の木造船について、(4)脱北者家族が所持していた「毒薬」の成分分析結果について、など。なお、文中の強調部分は全て当方によるものである。各紙社説へのリンクを末尾に載せておく。


 6月7日木曜発売の『週刊新潮』6月14日号から、ネット上の疑惑に関する点を幾つか引用する。先ず、32頁2段目後半、「エンジン」に関する地元漁師の言。
 「木造の船は、まさかこれで日本海を渡ってきたとはとても信じられないような代物。エンジンは予備用を含めて2基ありましたけど、どちらも農耕用のように見え、粗末なものでした。漁協の人が水とお菓子を持っていくと、母親らしき人は口にしたけど、残り3人は許否していました。見ていてかわいそうでしたよ。こんな船で逃げてきたと思うとね。」

 次に、33頁1段目、片言の日本語に関する青森県警関係者の言。
 一方、ニュースに触れた関係者が一様に驚いたのは、「日本語についてです。新聞で、一家が“日本語を話せる”“自由を求めてきた、と語っている”などと報じられたため、かなり巧みに日本語を操る、との印象を持った人が多かったようですね」(県警関係者)

 その他、辺真一氏と重村智計氏のコメントもあり。読んだ感想としては、辺氏は脱北者への警戒を残しており、重村氏はどちらかというと温情的な印象を受けた。全文に興味のある方は買って読んで、と宣伝。同日発売の『週刊文春』6月14日号には、覚醒剤所持に関する李英和氏のコメントあり。158頁5段目。
 「北朝鮮で覚醒剤の使用は珍しいことではありません。北朝鮮国民には麻薬という意識はなく、強壮剤として使われています」

(07日17時31分)時事:脱北急増、考えにくい=所持の覚せい剤分析へ−漆間警察庁長官Web魚拓
(07日18時24分)東京:首相訪朝や拉致問題を知る 脱北家族が捜査当局に供述Web魚拓
(07日19時45分)毎日:<脱北者>「拉致事件や小泉前首相訪朝知ってた」警察庁長官Web魚拓
(08日08時01分)産経:脱北者、「拉致」承知 警察庁長官「将来悲観が動機か」Web魚拓
 7日の記者会見での漆間巌警察庁長官の発言が、各メディアで報じられている。当方でQ&A形式で纏めてみる。重複する内容もそのままにする。
Q.青森県で保護された脱北者4人について
A.「警察も調べたい事項が残っているが、最終的には外務、法務当局が協力して決めることになるだろう」(時事)

Q.脱北の動機について
A.「北朝鮮の現状に関する不満や将来への絶望感があった。船で韓国に向かうのは危ないので日本で唯一地名を知っていた新潟に向かった」(毎日)/「北朝鮮の現状に疑問を持ち、将来を悲観したのだろう。」(産経)

Q.生活状況・経済状況について
A.「小泉純一郎首相の訪朝や拉致問題について知っていた」「(供述から)4人の北朝鮮での生活は、楽な部類に入るのではないかと思う。外部から情報を得る手段も持っていたようだが、近隣の食糧事情は大変、悪化しているようだ」(東京)/“北朝鮮東北部の清津(チョンジン)近くの村落に居住”、「小泉純一郎前首相の訪朝や拉致事件の存在を知っている」「4人は日本に関して細かいことは知らないが、何らかの情報を得る手段を持っていた。また周囲に比べると経済的余裕があったとみられる。」(毎日)/「(家族が住んでいた)清津(チョンジン)の一部の集落は、食糧事情もほかに比べてよく、4人は情報を得る手段もあったようだ」「北朝鮮の食糧事情や体制などに疑問を持つ人はほかにもいるだろう」(産経)

Q.二男が所持していた覚せい剤について
A.「ある程度金があれば、簡単に手に入るようだ。微量成分分析で(過去の押収物と)データを比較し、製造場所や入手方法を詰めないといけない」(時事)/「(4人が居住していた清津付近では)ある程度金があれば、簡単に入手できる実情にあるようだ。成分分析し、これまで(密輸事件の捜査などで)蓄積しているデータと比較したい」(東京)/「北朝鮮ではある程度の金があれば覚せい剤が簡単に手に入る実情にあるようだ」「覚せい剤の成分分析をして北朝鮮のどこで作られ、どう入手したのかきちっと詰めていきたい」(毎日)

Q.今後も脱北者が増えるかどうか
A.「脱北にも金がかかる。北朝鮮が崩壊すれば別だが、次から次に同じことが起きるとは思えない」(時事)/。(船での脱北の準備には)金もかかる。次から次に同じようなことは起こらないだろう」(毎日)/「生活がこの(脱北者家族の)程度に豊かでないと、このようなことはできないだろう」(産経)

(08日12時58分)産経:無人の北朝鮮船が漂流か 北海道松前町沖で発見Web魚拓
 7午後3時半頃、北海道松前町の江良漁港沖合で、無人の木造船が漂流しているのを地元の漁業者が発見。木造船は長さ約6メートル、幅約1.5メートルで、「船の内部や船尾に赤色でハングルが記されていた。エンジンを積んでいたが、ほかに荷物などはなかった。」という。函館海上保安部によると「脱北者を乗せて青森県深浦町に着岸した木造船と形状が似ており、北朝鮮の船である可能性が高い」「北海道沿岸では過去10年間に、ハングルが書かれた同様の木造船が7隻見つかっている。」とのこと。産経記事では「多数の海藻や貝が付着していた状態などから1カ月前後、無人で漂流していたとみられる。付近で不審者が上陸したなどの情報は寄せられていない」ともある。


(08日20時56分)時事:脱北家族の「毒薬」は殺そ剤=青森県警Web魚拓
 脱北者家族が所持していた「毒薬」は、殺鼠剤と判明。6月3日付の読売記事Web魚拓)では、所持していた「毒薬」について「警察当局で成分の分析を急いでいるが、工作員が使用する毒薬とは異なっているため、当局では「説明の通り、工作員などではなく、純粋に脱出を目指したのではないか」とみている。」とあった。工作員が使用する「毒薬」ではなく、脱北者家族の供述通り殺鼠剤だとすると、覚醒剤密売人説に続き、工作員説の可能性も無さそう。


(09日08時01分)産経:脱北者4人の立件見送るWeb魚拓
>青森県警は8日、青森地検と協議の結果、入管難民法違反(不法入国)での立件を見送ったことを明らかにした。


(09日19時21分)NHKニュース:脱北船に工具箱 軍から流出かWeb魚拓
 木造小型船に救急箱大の工作箱があったことが報じられる。表には「574部隊」という文字が書かれており、中には釘が多数入っていて、朝鮮人民軍から流出したものと見られている。上記報道では、航海途中での船体修理に備えて集められたとの韓国筋の見方、脱北者一家が軍所属とは見ていないとの日韓両国の見方を紹介し、宮塚利雄教授の「北朝鮮では軍からの物資の横流しが横行しており、今回明らかになった工具箱なども、4人が軍に金を払って手に入れたのであろう。それだけ軍の規律が緩み、腐敗が進んでいることを示すものだ」というコメントで締めている。


【6月11日22時20分頃追記】

(11日19時20分)時事:脱北者家族の二男、起訴猶予=「特別の酌量事情」−覚せい剤所持・青森地検Web魚拓
(11日20時13分)毎日:<脱北者>覚せい剤所持の次男は起訴猶予 青森地検Web魚拓
 青森地検は、覚せい剤取締法違反(密輸及び所持)容疑で書類送検されていた脱北者家族の次男を起訴猶予処分とした。処分理由と木造小型船の処分について毎日記事から引用する。
 処分理由について同地検の森隆志・次席検事は(1)0.685グラムと少量(2)日本で使用・譲渡する意図はなかった(3)命がけの脱出で眠気覚ましに持っていたもので、酌量すべき事情がある−−などと説明した。4人は尿検査を受けたが覚せい剤は検出されなかったという。

 一方、脱北に使われた小型船について、森次席検事は「売れるなら売り、売れないなら破棄するなど、証拠品として適正に処分する。処分には時間がかかるかもしれない」と語った。

 これで覚醒剤密売人説、工作員説ともに終了か。

※今のところ報道はここまで。追記するかも。


朝日放送の『ムーブ!』6月6日放送分?
北朝鮮ルポの第一人者石丸次郎氏「脱北4人家族はスパイではない」01
北朝鮮ルポの第一人者石丸次郎氏「脱北4人家族はスパイではない」02


全国紙社説
(2007年06月03日)読売社説:「脱北者」 日本を目指すことになるのかWeb魚拓
(2007年06月04日)朝日社説:脱北者―小舟に託した命の重さWeb魚拓
(2007年06月05日)日経社説:脱北者への備えと海の守りをWeb魚拓
(2007年06月05日)毎日社説:脱北者 政府は課題を突きつけられたWeb魚拓
(2007年06月06日)産経社説:【主張】脱北者と覚醒剤 法治国家の姿勢を示そうWeb魚拓

地方紙社説
(2007年06月03日)沖縄タイムス社説:[脱北者漂着]人道的な配慮優先でWeb魚拓
(2007年06月04日)新潟日報社説:脱北者漂着 人道支援の形が問われるWeb魚拓
(2007年06月04日)京都新聞社説:脱北者漂着 海上ルートは想定外かWeb魚拓
(2007年06月04日)中国新聞社説:脱北者 人道的な配慮が一番だWeb魚拓
(2007年06月04日)山陽新聞社説:脱北者 可能性ある日本への増加Web魚拓
(2007年06月04日)徳島新聞社説:木造船脱北家族 人道的な救済図りたいWeb魚拓
(2007年06月04日)愛媛新聞社説:脱北者保護 ルートの多様化に十分備えよWeb魚拓
(2007年06月05日)東京新聞社説:脱北船 「決死」が物語る過酷さWeb魚拓
(2007年06月05日)東奥日報社説:今後増えないか心配だ/脱北者深浦漂着Web魚拓
(2007年06月05日)神戸新聞社説:脱北家族/人道的な配慮を優先してWeb魚拓
(2007年06月06日)岐阜新聞社説:脱北者漂着 広い視野で難民救済をWeb魚拓
(2007年06月06日)山陰中央日報社説:脱北者漂着/難民救済は広い視野でWeb魚拓
(2007年06月06日)南日本新聞社説:[脱北者保護] 人道的立場から支援策の論議が必要Web魚拓
(2007年06月07日)陸奥新報社説:脱北家族 「まさかの備えを」Web魚拓
(2007年06月07日)福島民友社説:脱北者漂着/「経済難民」にどう対応するWeb魚拓
(2007年06月07日)福井新聞社説:脱北者問題 幅広い視野の対策急務Web魚拓
(2007年06月07日)熊本日日新聞社説:脱北者漂着 沿岸警備と難民救済再考をWeb魚拓
(2007年06月08日)佐賀新聞社説:脱北者漂着 沿岸警備は大丈夫かWeb魚拓
posted by sok at 19:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 北朝鮮人権法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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