本稿では6月4日の覚醒剤報道以降について各報道を眺めて見る。(1)動機・食糧事情・北での生活状況・一家の職歴などに関する脱北者供述、(2)片言の日本語を話すのは誰で、どの程度の日本語能力か、(3)日本政府による脱北者認定、(4) 「ごく微量の覚醒剤」に関する報道と北朝鮮での覚醒剤流通事情、(5) 「毒物のような薬品が入った小瓶」に関する報道、(6) 「2基のディーゼルエンジン」搭載に関する報道と二つの見解、(7) 父親の腕時計や木造小型船内で発見されたその他の所持品に関する報道、(8) 海上警備見直し検討に関する報道、(9) 東日本入国管理センターへの移送に関する報道、(10)アメリカの専門家の見解など。なお、文中の強調部分は全て当方によるものである。6月2日と3日の報道に関しては前日の記事を参照のこと。
2007年06月04日
(04日02時19分)産経:「脱北」4人、韓国移送で調整 生活苦…パン1日おき(Web魚拓)
大筋は3日の産経記事と同内容。前日のエントリーと重複するが、今回の脱北者4名に関する基本情報なので復習も兼ねて記す。脱北者の家族構成は、元漁師の父親と無職の母親、長男は専門学校生で、二男はタコ漁師。その他、青森県警に対する脱北者4名の供述部分を上記産経記事から抜き出す。
「生活が苦しく、1日おきぐらいにパンを食べるのがやっとだった」「自由がない。人権が保障される国に行きたい」「北朝鮮に残した家族はいない」「二男が操縦資格を持っており、苦労して船を購入し、タコ漁の収入で一家を細々と支えてきた」「韓国の放送を聞くと罰せられる」“4人は濃霧に覆われた5月27日夜、北朝鮮の清津をタコ漁用の木造船で出港。最初の4日間は悪天候が続いて船が大きく揺れ、食事や会話もできず、必死に船にしがみついていたという。”「途中で何隻かの船とすれ違った」「陸地が近づいてほっとした」“持っていた瓶入りの液体は「ネズミを殺す毒薬で、北朝鮮当局に捕まったら飲んで死ぬつもりだった」”
(04日東京朝刊)毎日:<青森・脱北者保護>脱北の家族、生活や船の様子供述(Web魚拓)
毎日記事でも脱北者の家族構成などが報道されている。4人の経済状況については、20代後半の息子(次男)に船の操縦資格があり、この次男がタコ漁をして一家の生計を支えていたが、「苦労して船を購入したが、生活は苦しかった」と供述している。30歳ぐらいの息子(長男)については「専門学校に通っていたと話している」という。50代後半の父親については元漁師で「日本語と中国語を多少話せる」とあり、他の3人は日本語が話せないので、事情聴取は朝鮮語で行われているという。これまでに報じられていた片言の日本語を話していた人物というのは、50代後半の父親のことだろう。では、この父親の日本語能力はどの程度のものだろうか。上記の毎日記事から引用しておく。
◇保護の3時間前、9キロ北の岸壁漂着
◇「ここ、ニイガタ?」 体洗う身ぶり
老朽化した小型船で日本海を渡ってきた、脱北者の家族4人。2日未明、最初に日本にたどり着いたのは、遊漁船が発着する青森県深浦町の小さな岸壁だった。父親は疲れた表情で「ここ、ニイガタ?」と遊漁船の出発を待っていた客らに2度繰り返し、身ぶりで体を洗いたいというふうに示したという。遊漁船の客からの110番通報で4人は約3時間後、約9キロ離れた深浦港で県警に保護されたが、この様子を目撃した客らは「まさか北朝鮮から来たとは思わなかった」と驚いていた。
この岸壁は深浦港の北にある、風合瀬(かそせ)漁港。午前4時、岸壁で遊漁船の出発を待っていた秋田市内の客3人が、櫓(ろ)をこぎながらふらふらと近づいてくる黒い小型船を見つけた。
小型船は岸壁から約5メートル離れて止まると、50代後半の父親が船の中から「ニイガタ」という地名を繰り返した。遊漁船の男性客(57)が、新潟ではないことなどを身ぶりで伝えようとしたが、父親は首をかしげるだけだった。
父親が拳を体の手前で上下させて体を洗うような仕草をしたため、別の無職の男性客(73)が「深浦港に行けば風呂もある」と思い、その方向を指さすと、櫓を使って港から出ていったという。やりとりは15分ほどだった。この間に、客の1人が110番通報した。
無職の男性客は「真っ黒で日本では見かけない船だった。ジャンパーを重ね着していたので、夜は冷えたのだろう」と印象を語り、遊漁船の船長は「4人は疲れた様子で、よれよれの服を着ていた。櫓を使っていたので、漁師ではないかと思った」と話している。
この毎日記事には、これまでの時系列情報も記載されている。おさらいも兼ねて引用する。
◆脱北者の家族4人が保護された経過◆
5月27日 小型船が北朝鮮・清津を出発
6月 2日 4時ごろ 小型船が青森県の風合瀬漁港に到着。
目撃した遊漁船の客が110番。小型船は再び、海上へ
同45分ごろ 県警が深浦漁協に「不審船が南下中」と連絡
6時ごろ 漁船が深浦港約300メートル沖で小型船を発見
同半ごろ 深浦港に県警のヘリが到着。小型船を港に誘導
7時過ぎ 小型船が深浦港に着岸。4人を県警が保護
8時半ごろ 4人がワゴン車で鰺ケ沢署に(その後、五所川原署に)
9時ごろ 小型船を港に陸揚げ
10時20分から 鰺ケ沢署に運ばれた小型船の実況見分
(04日東京朝刊)毎日:<青森・脱北者保護>4人、韓国移送へ 日韓外相が一致(Web魚拓)
こちらの毎日記事では麻生外相と韓国の宋旻淳(ソンミンスン)外交通商相が、脱北者家族の希望に配慮して、韓国に移送する方向で基本的に合意したことを報じている。また、捜査当局に提供された上申書は「(北朝鮮では)無力な支配者が社会を後退させていることに疑問と不満を持っていた。生活はだんだん厳しくなった。(息子2人の)将来にも不安を感じるようになった。同じ民族で言葉の通じる韓国に送ってほしい」という内容で、ハングルで「4人がそれぞれ直筆で同趣旨のものを書いて提出した。」とある。「今のままでは餓死するので、皆で出国することを決めた」とも供述しているという。さらに、「男女4人が青森県で保護された問題について、北朝鮮の朝鮮中央通信などは3日夜現在、報じていない。」ともある。
(04日12時48分)読売:脱北男女4人、塩崎長官「北朝鮮人権法に従い適切対処」(Web魚拓)
ネット上には、脱北者家族への工作員説、覚醒剤密売人説が存在するが、こちらの読売記事によると日本政府は脱北者認定を行なっている。短い記事なので全文掲載とする。
塩崎官房長官は4日午前の記者会見で、青森県深浦町沖で脱北者の男女4人が見つかった問題で、「北朝鮮当局発行と見られる身分証明書等を所持しており、生活に困窮したことなどを理由として、北朝鮮からの脱出を企図したものと判断している」と述べ、4人が脱北者であることを公式に認めた。
塩崎長官は「昨年6月に施行された北朝鮮人権法の趣旨にかんがみて適切な措置を講じたい」と述べ、脱北者の保護や支援について「努力規定」を設けた同法の趣旨に沿った対応をとる考えを明らかにした。4人が希望している韓国行きについては、「生命、身体の安全確保をしなければいけない。本人の意向を尊重して、適切に処理をしなければならない」と述べた。
(04日13時43分)朝日:脱北者が微量の覚せい剤 所持の次男を警察聴取へ(Web魚拓)
青森県深浦町の港で保護された脱北者4名の所持品から、ごく微量の覚醒剤が発見されたことから、ネット上では、この脱北者家族4名が北朝鮮工作員か覚醒剤密売人ではないかという疑惑が持ち挙がっている。上記の朝日記事によれば、覚醒剤を所持していたのは脱北者家族のうちタコ漁師をしていた次男で、この次男は覚醒剤所持を認めているとのこと。また、木造小型船内から「毒物のような薬品が入った小瓶」「多少の中国の人民元」「北朝鮮のものとみられる通貨」「ソーセージ」「ポリ袋に入った漬物」などが見つかったとのこと。脱北者4名は、これまでの青森県警の調べに対して、「生活が苦しく、お金もなく、仕事もない」「今の体制では人民は食べていけない」などと脱北の動機を説明していたという。
(04日14時30分)読売:脱北者が微量の覚せい剤所持、「自分で使うため」と説明(Web魚拓)
読売記事によれば、結晶粉末状の微量の覚醒剤とのこと。次男が自己使用目的で所持していたという。警察当局の対応はというと「脱北者であることから密売目的で持ち込んだとは考えられず、逃走の恐れもないことから強制捜査には踏み切らず、覚せい剤取締法違反(所持)容疑で書類送検する方向で検察庁などと協議している。」とのこと。そして、某匿名巨大掲示板や保守系ブログなどで注目されているのが次の文章。「警察当局は、生活の困窮ぶりを訴える一方で、弟が覚せい剤を入手できる立場にあったことにも注目。弟の船に、北朝鮮の漁師では通常、手に入りにくいとされるエンジンが付いていた点とも併せて事情を聞く。」
(04日14時49分)スポーツ報知:脱北者が覚せい剤所持(Web魚拓)
(04日15時21分)産経:脱北者の1人が覚せい剤所持 「韓国行きたい」と上申書(Web魚拓)
脱北者4名のその他の所持品について、4日のスポーツ報知記事では、他に「衣類」「懐中電灯」「コンパス」「ソーセージなどの食料品」「飲料水」「ジャンパーやズボン、靴下などの衣類が入ったリュックサック」「かっぱ」「懐中電灯」「傘」「タオル」「はし」などが積まれていたという。産経記事の方は、上申書の提出、木造船から発見された所持品の内容などを報道。所持品歩道については、スポーツ報知と同様の内容。
(04日東京夕刊)毎日:海水でエンジン冷却 脱北家族、故障覚悟で渡航?(Web魚拓)
こちらの毎日記事には、先に読売記事で「北朝鮮の漁師では通常、手に入りにくいとされる」と報じられていた「エンジン」に関する記述があった。その部分を引用しておく。
脱北者の家族4人が小型船で青森県に着いて県警に保護された問題で、小型船のエンジンに海水を直接注入して冷やす仕掛けがしてあったことが分かった。真水でないとエンジントラブルの原因となるため、日本では通常考えられないといい、船を見た漁業関係者は「数日もてばいいというつもりで北朝鮮を出て来たのかもしれない」と話している。
関係者によると、船には予備とみられるもう1台のエンジンもあったが、2台とも数馬力しか出ないタイプだった。船は木造で、長さ7・3メートル、幅1・8メートル。エンジンで航行するなら、10馬力はないと無理という。
船には櫓(ろ)も積んでおり、最初に同県深浦町の風合瀬(かそせ)漁港で小型船を目撃した遊漁船の客らは、「櫓をこいで近づいて来た」と話している。4人は県警の事情聴取に「(海上で)悪天候の時は話もできず、ただ船にしがみついていた」と話しており、小型船は実際にはエンジンがほとんど役に立たない状態で青森沖まで来た可能性がある。
(04日19時27分)朝日:脱北船発見できず「残念」 国交省、哨戒強化を検討(Web魚拓)
海上保安庁が木造小型船を事前把握できなかったことについて、国土交通省・安富正文事務次官の発言が、朝日記事にて紹介されている。「小型の木造船を見つけるのが困難だというのは事実。だが、哨戒(見回り)を強化する必要があると思うし、事前に情報を得るために関係機関や市民との協力も含めて、対応を検討したい」とある。
(04日20時43分)毎日:<脱北者>持っていた液体は「殺そ剤」と話す(Web魚拓)
毎日新聞記事によれば、先の「毒物のような薬品が入った小瓶」は殺鼠剤であると脱北者が県警の取調べに対して話している。所持目的は「北朝鮮当局につかまったら(飲んで)死ぬつもりだった」とのこと。但し、現時点ではこれは脱北者側の言い分に過ぎず、県警が各種殺鼠剤を取り寄せて行なう成分分析の結果を待って判断すべきだろう。(追記:「殺鼠剤」供述は3日の産経記事にも載っていた)
(04日21時19分)毎日:<脱北者>次男が微量覚せい剤所持 「船で眠らないため」(Web魚拓)
報道されていた覚醒剤の量(「ごく微量」)について、毎日記事は約0.6グラムの粉末と報じている(※。「注射器などは見つかっていない」という。「警察当局は4人から尿を採取して、使用の有無についても調べている。」ともある。約0.6グラムであれば、密売目的とは考えにくいかも(なお、覚醒剤の量については0.7グラムという報道もある)。覚醒剤入手経路についての警視庁の視点について、毎日記事から引用しておく。
警察庁は北朝鮮が外貨稼ぎのため国家として覚せい剤製造に関与しているとみており、4人が小型船で出港した北朝鮮北東部の清津(チョンジン)港付近を含め国内3カ所に密造工場があるとみている。清津港は過去に日本への密輸事件の積み出し地として使われたこともあり、次男が清津周辺で出回る覚せい剤を入手した可能性もある。
次男は船の操縦資格があり、北朝鮮ではタコ漁で一家の生計を支えていた。これまでの調べに「苦労して船を購入したが、生活は苦しかった」などと話しているという。
今後の脱北者4名の身柄や取り扱い等についても引用。
覚せい剤所持について、警察当局は次男を書類送検する方針を示唆している。仮に書類送検された場合、検察の起訴・不起訴の処分が焦点だ。不起訴(起訴猶予を含む)になれば、その時点で韓国に出国させることが可能となるが、起訴になると公判の結論を待たなくてはならない。いずれにせよ、韓国側が引き取る姿勢を変えないことが前提だ。
また、保護期限の切れる7日以降の4人の保護場所の問題も出てくる。警察庁は「警察が引き続きガードし、警戒することは可能」としているが、警察署以外の適当な施設探しに苦慮している模様だ。
覚せい剤所持発覚を受け、法務省幹部は「4人が人道的取り扱いを受けるべき脱北者であることに変わりはない。日本に身寄りがあるわけではなく、最終的に韓国に移住するのが妥当」として、北朝鮮へ送還する予定はないとの見解を改めて示している。
(04日23時49分)読売:小型船の不法侵入、海上警備見直しへ…官房長官(Web魚拓)
脱北者の老朽化した木造小型船が日本に辿り着いたことから、各大臣からも海上警備への見直しを検討する旨の言及がなされている。脱北者への同情とは別に検討されるべきことだと思う。4日の読売記事では、同日に開かれた参院拉致問題特別委員会での塩崎官房長官と麻生太郎外務大臣のコメントが載っている。以下に引用する。
塩崎官房長官は4日の参院拉致問題特別委員会で、青森県深浦町沖で脱北者の男女4人が見つかった問題で、「海上保安庁が洋上で(4人が乗った)小型船を発見できなかったのは非常に残念だ」と述べ、海上警備に不備があったと指摘した。
そのうえで、「小型船対策を検討し、海上からの不法侵入を防がなければいけない」と述べ、レーダーに映りにくい小型船で工作員や脱北者らが上陸する事態を想定し、警備態勢を見直す考えを表明した。
麻生外相も「(北朝鮮に)何かあった場合、大量の難民が発生する可能性はゼロではない。武装難民(が来る事態)も考えておかねばならない。難民はかわいそうだというレベルの話ではない」と述べ、対応策が必要だとの考えを示した。
2007年06月05日
(05日03時02分)読売:「北で覚せい剤、簡単に買える」…脱北男性(Web魚拓)
5日の読売記事によると、覚醒剤所持の脱北者男性(20代後半・弟)が警察当局の事情聴取に対し、「長旅で眠らないようにするためのものだった。北朝鮮では簡単に買える」と供述しているという。北朝鮮国民の間に覚醒剤が出回っていることについては、過去にも報道されているので、(量にもよるが)0.6グラムならば特に驚くことではない。
(05日07時35分)ニュースイザ!:脱北家族、船上での様子や持ち物は? 覚醒剤も「街で買える」(Web魚拓)
上記報道では覚醒剤の量について0.7グラムとしている。0.6でも0.7でも大差はないが、念の為、メモ。
(06月05日08時01分)朝日:脱北船「軽油200リットル準備」 平均収入の16年分(Web魚拓)
5日の朝日記事によると、脱北者が乗ってきた木造小型船から軽油約90〜100リットルが積まれていたことが明らかになったとあり、脱北者家族は「出発時には200リットルほど積み込んでいた」と話しているという。軽油は北朝鮮の相場では非常に高価であり、簡単には入手できないとのこと。木造小型船については、老朽化した全長約7.3メートルのもので、「予備用とみられるものを含めて2基のディーゼルエンジンを搭載」していて、内湾でのタコ漁用ならば「エンジンは1基で十分」という。記事に掲載されている宮塚利雄教授の解説を引用しておく。
北朝鮮の生活事情などに詳しい宮塚利雄・山梨学院大教授は「北朝鮮では軽油は非常に高く、1リットルの価格が平均的な給与の1カ月分に相当すると言われる」と指摘。一家が準備した軽油の価格は、相場通りなら、16年分の収入に相当する。
「船は古く見えても、軽油が大量に積まれ、予備用のエンジンまであったことを考えると、貧しい状況にあった人たちとは決して思えない」との見方を語った。
海上の交通に詳しい関係者は、日本海の天候や波が1年で最も安定するこの時期に海路での脱出を実行したことに着目。「冬の間に燃料やエンジンを少しずつ調達し、この時期を待っていたと思う」と、見方を示す。
捜査当局はこうした状況を踏まえ、いつごろから脱北の準備を進め、どのような方法で燃料などを用意したのかについても事情を聴くとみられる。
朝日記事の「エンジン」に関する記述・評価は4日の読売記事に近く、4日の毎日記事の記述とは異なる。いずれの記述・評価が妥当であるか、続報待ち。
(05日19時29分)毎日:<脱北者>脱北者:一般市民の覚せい剤所持「北朝鮮では珍しくない」(Web魚拓)
脱北者の覚醒剤所持目的に関して、5日の毎日記事は元脱北者のコメントを載せている。少し長くなるが引用しておく。
青森県深浦町で保護された脱北者家族4人の所持品から微量の覚せい剤が検出されたことについて、脱北に成功し日本に戻って来た人たちは「北朝鮮では珍しくない。(一般市民の所持は)あり得る」と口をそろえる。警察当局は、次男を覚せい剤取締法違反容疑で書類送検する方針だが、北朝鮮のこうした事情も考慮してのものと思われる。
数年前に脱北・帰国した東京都内の40代の元在日朝鮮人男性は「ヤミで覚せい剤を扱う人がいる。彼らにお金さえ払えばいくらでも手に入る。普通の人でも手に入れて使っている」と指摘する。
男性によると、北朝鮮の製造工場で作られた覚せい剤は品質によって価格は異なるが、00年ごろには1キロ1万円程度で取引されていたこともあった。「社会が不安定で日々の暮らしに希望が持てず、眠気覚ましに使ったり、興奮状態になろうとして覚せい剤を求める人もいる」と話す。
また、04年に脱北した大阪府の女性は「国を挙げてアヘンの原料となるケシの栽培を奨励しており、覚せい剤にも怖いというイメージはなかった。アヘンは下痢の治療などに利用されている。自分も使ったことがある」と語った。
(05日19時48分)共同:脱北家族4人全員が腕時計 中流の家庭か(Web魚拓)
腕時計所持に関する報道は、共同通信社記事と時事通信社記事とで少し違う。両記事とも短文なので全文掲載とする。
青森県深浦町で保護された脱北者家族4人が、北朝鮮では高価な軽油や予備用エンジンを木造船に積んでいたほか、地方の貧困層は持っていないとされる腕時計を全員が持っていたことが5日、分かった。4人は県警の調べに「1日おきぐらいにパンを食べるのがやっとだった」と生活苦を訴えているが、識者は「北朝鮮では中流層の生活を送っていたのではないか」と推測している。
(05日21時43分)時事:腕時計所持、軽油も200リットル=脱北家族、貧困層でない?(Web魚拓)
青森県深浦町で保護された脱北者家族のうち、父親の男性が腕時計を持っていたことが5日、分かった。また、出航時に小型船に積み込まれた軽油は約200リットルだったとみられる。
4人は県警の事情聴取に対し、「生活が苦しく、北朝鮮から逃げてきた」と話しているが、北朝鮮では高価な軽油を大量に準備していたことなどから、「貧困層ではない」との見方も出ている。
2007年06月06日
(06日03時06分)読売:脱北の4人、茨城県牛久市の入管施設にヘリで移送(Web魚拓)
(06日東京朝刊)毎日:<青森・脱北者保護>脱北の4人、きょう入管施設移送 法務省が上陸許可へ(Web魚拓)
(06日09時14分)産経:脱北4人、茨城の入管施設へ 県警ヘリで移送(Web魚拓)
法務省は脱北者一家4人を茨城県牛久市内にある入国管理局施設「東日本入国管理センター」に移送することを決定。これまで脱北者一家は警察官職務執行法に基づいて青森県警五所川原署にて保護されていたが、同法に基づく保護期間は最大5日間であり、6日の深夜に期限を迎えるため、同日中に青森県警のヘリコプターで移送するという。「法務省も4人が申請した一時庇護(ひご)のための上陸許可を同日認める。」とのこと。脱北者家族4名は、韓国に移送されるまでの間、同センターに滞在し、次男についての覚醒剤取締法違反容疑での取り調べは青森県警が同センターで引き続き行うという。
(06日08時00分)朝日:脱北一家、ラジオから国外情報 「拉致知っている」(Web魚拓)
6日の朝日記事では、脱北者一家の所持品の中にラジオがあったことを報じている。ラジオの詳細と拉致関連、一家の経済状態に関する部分を引用する。
調べでは、北朝鮮で購入できるラジオは特定の局しか受信できないように周波数帯が固定されているというが、発見されたラジオはチューニングを変えられる仕様だった。既製品ではなく、部品を集めて手作りで組み立てられた可能性があるという。
県警の聴取に対し、一家は「日本人の拉致問題も知っている」と話している。ラジオを通じて、日本や韓国などの事情にも知識があったと捜査当局はみている。
一家が出港したとする北朝鮮北東部の清津(チョンジン)は、拉致被害者の曽我ひとみさん(48)が78年に新潟県の佐渡島から拉致された際の上陸地点とされる。このため、捜査当局は拉致被害者らに関する情報を持っていないか一家に尋ねたが、具体的な情報は持っていなかったという。
一方、4人のうち1人は地元製鉄会社に勤めていたことが分かった。「仕事はなかったが、出勤を強制されていた」と話している。タコ漁師である次男の収入で、地元では経済的に恵まれている方だったという。
(06日12時58分)読売:脱北者一家4人、入管施設に向け青森をヘリで出発(Web魚拓)
東日本入国管理センターについての説明も引用しておく。
4人が当面滞在する入管施設は、同省入国管理局が研修寮として使用しており、各部屋にベッドのほか、シャワーやトイレなども備え付けられている。4人はすでに、第三国に出国するまで6か月以内の日本滞在を可能にする「一時庇護」の申請を出しているが、20代後半の弟が覚せい剤を所持していることが発覚した。
そのため、同省では、韓国の受け入れ姿勢に変化がないかを見極めてから、一時庇護の許可を出す考え。ただ、「4人が入管施設に入るには何らかの上陸許可を与える方が望ましい」(同省幹部)ことから、同省は6日中に、入管難民法に基づき、4人に仮上陸を認める見通し。
ネット上には、この脱北者に対する不信感も強まっているようなので、感謝の言葉も口にしているという点も上記記事から引用する。
4人を乗せたマイクロバスは午前9時前、五所川原署を出発した。4人は、北朝鮮から持参したTシャツやジャンパー、長ズボンに着替え、幕の内弁当を食べた後、通訳担当の警察官に「短い間でしたが、本当にありがとうございました」と礼を述べたという。4人を乗せたヘリは同10時前に飛び立った。
(06日20時07分)読売:脱北者4人、茨城・牛久市の入管施設に…「仮上陸」許可(Web魚拓)
6日午後2時半過ぎ、脱北者一家が東日本入国管理センターに移送される。これに伴って法務省は出入国管理及び難民認定法に基づく「仮上陸」の許可を与える。「施設では、ロビーでテレビを見ることもできる。食事はこれまで弁当だったが、今後は施設の食堂を利用することになる。」という。
(06日22時29分)毎日:<脱北者>覚せい剤所持の次男を書類送検(Web魚拓)
これまで「タコ漁師」と報道されていた次男の職業が「イカ漁師」に訂正される。「次男が話した「ナクチ」という言葉は、韓国ではタコだが、北朝鮮ではイカの意味だという。」とのこと。
(06日14時23分)時事:対中国国境警備強化が一因=日本が新たな脱出経路に?−脱北者問題で米専門家(Web魚拓)
脱北者の日本漂着に関するアメリカの専門家の見解が、時事通信社の記事で紹介されている。
北朝鮮の人権問題に取り組んでいる米民間団体、「北朝鮮自由連盟」のスーザン・ショルティ会長は6日までに、米系ラジオ局、自由アジア放送のインタビューで、4人が日本に向け脱出した背景として、「第1は北朝鮮の体制に対する失望感があるが、第2には中国との国境地域で監視態勢が強化されていることがある」と分析。北朝鮮住民が今後、脱出経路として日本を検討する可能性が出てきたと語った。
一方、別の民間団体「ヘルピング・ハンズ・コリア」のティム・ピーターズ代表は同放送に対し、北朝鮮の国境警備隊員が数カ月前から、ロシア製の高性能狙撃銃「ドラグノフ」を携行しているとの情報を明らかにした。この狙撃銃を使用すれば、800メートルから1キロ先の脱出者に照準を合わせて射殺することも可能とされる。
覚醒剤の末端価格に関する参考報道
下記の二つの記事を見ると覚醒剤の末端価格相場は時期によって大きく左右されることが見て取れる。そして、いずれにせよ0.6グラム程度では大した額にはならないことも分かる。脱北者が密売人であって、何らかの事情により事前に大量の覚醒剤を日本海に投棄していたのであれば、手元に残った0.6グラムは何だったのか。0.6グラムだけ自己使用目的で所持?密売人であることを誤魔化すのであれば、残りも投棄するのではないか。現時点では、覚醒剤報道も様子見で良いと思われる。
(2007年05月11日)産経:末端価格40億円、覚醒剤所持で中国人5人逮捕(Web魚拓)
>警視庁組織犯罪対策5課などは、51.4キロの覚醒(かくせい)剤を東京・新宿のマンションに隠し持っていたとして、中国籍の自称土木作業員、趙善源容疑者(23)ら中国人の男女5人を覚醒剤取締法違反(営利目的所持)の疑いで、逮捕した。末端価格にして40億円近い量で、全国で50キロを超す押収は一昨年2月以来。
(2007年06月02日)毎日:覚せい剤密売:6キロ密売容疑、「関東の麻薬王」逮捕(Web魚拓)
>早川容疑者は国内で5指に入る密売の元締めとされ、府警は100キロ(末端価格約60億円)以上は売りさばいたとみている。
>早川容疑者らは06年3〜12月、国内の暴力団関係者など4グループに、覚せい剤約6キロを約9000万円で売った疑い。
関連法令
拉致問題その他北朝鮮当局による人権侵害問題への対処に関する法律(Wikipedia)
警察官職務執行法(Wikipedia)
出入国管理及び難民認定法(Wikipedia)
→一時庇護のための上陸(Wikipedia)
覚せい剤取締法(Wikipedia)
※一先ず、ここまで。追記するかは未定。疲れた。(6日23時30分)
【06月07日23時30分追記】
韓国三大新聞の報道
4日頃から報道され始める。主要なもののみリンクする。韓国の新聞社は保持期限が長い(無い?)ので、今のところ魚拓は取らない。
(2007年06月04日06時16分)東亜日報:「第2の金マンチョル一家」
→金マンチョルは漢字表記だと金萬鉄。1987年1月20日に発覚した亡命事件。Wikipediaにはズ・ダン号事件として載っている(電脳補完録さん経由)。
(2007年06月04日09時20分)朝鮮日報:木造船で900キロ、脱北一家4人の生死かけた1週間
→脱北者家族の航路と海流を示した地図、木造小型船を上から撮った写真が掲載されている。
(2007年06月04日13時56分)中央日報:脱北の4人、小型木造船で850キロ離れた日本へ
(2007年06月04日07時15分)朝鮮日報:日本、脱北者4人の韓国への移送を表明=共同通信
(2007年06月05日08時23分)中央日報:木船で日本へ…北脱出家族が伝えた
(2007年06月06日07時00分)朝鮮日報:脱北家族は「中流」以上? 腕時計など所持で疑惑浮上
→今回の脱北者が中流以上かもしれないとの見方。山梨学院大・宮塚利雄教授のコメントあり。
(2007年06月06日08時23分)中央日報:日外相「偽装難民ではないという保証ない」
→これは、5日の記者会見での麻生外相の「武装難民ではないということは明らかだが、偽装難民ではないという保証はない」を報じたもの。
今回の「脱北者(仮)」についてはまだ情報が錯綜してどういう意図で日本に来たのかわからない所が多すぎますし工作員にしては稚拙ですし脱北者というには持っていた物が用意周到すぎます。
本当に警察と入管からの情報待ちですね。
あと覚せい剤の参考報道はたいした金額にはなりそうにないのは金額を換算してなるほどと・・・、覚せい剤と聞くと条件反射的に高額と思い込んでました。
塩崎官房長官が4日昼の時点で公式に脱北者認定をしているので、これで脱北者でなかったら、それはそれで問題ですね。違っていてもそうは言えないかも…ということで、私は一応、脱北者という前提で考えています。本文全体に幾つか追記をしましたので、前日分と併せて目を通して頂けるとありがたいです。
>工作員にしては稚拙ですし脱北者というには持っていた物が用意周到すぎます。
たぶん、この点で皆さん戸惑うのでしょうね。一先ず、6日までの報道を見た感じでは覚醒剤密売人の線は薄いように思いました。エンジンの評価に関しては、朝日・読売報道と毎日報道で見解が正反対に分かれているので続報待ちとして、所持品の毒薬についても工作員が使用する毒薬とは異なるという報道があり、供述通りの殺鼠剤であるか成分分析が待たれます。その他、脱北者家族(特にイカ漁師の次男)の職業情報や所持品のラジオについて、もう少し情報が出てくれば、はっきりすると思います。
いずれにしても、「脱北者=絵に描いたような貧乏人or虐げられる側の人」というイメージは訂正する必要があるのかもしれません。既に身柄は確保しているので、様々な可能性を想定し、韓国に移送するまでの間に色々と取調べを進めて、聞くべきことは聞くという強かさがあっていいと思います。脱北者という前提ならば拉致被害者や特定失踪者、日本人妻の情報、覚醒剤入手経路、その他の北朝鮮の状況など、工作員ならば(工作員だったら尚のこと)目的や日本側協力者など、聞くべきことは沢山あります。
脱北者関連記事のまとめ、本当にご苦労様です。
web掲載のないものを、いくつか拾いました。
http://blue-jewel-7.cocolog-nifty.com/blog/
Blue jewelからTBさせていただきましたので、ご了承ください。
豆満江を渡って中国側に脱出し、広い中国を横断してタイやカンボジア、ベトナムに抜ける「脱北ルート」。この場合も、実際には相当な「金銭」が必要になってます。
産経紙面とTBS報道はチェック不足でした。週刊新潮6月14日号には2基のエンジンが「農耕用のように見え、粗末なものでした」という地元漁師の言葉もあり、まだまだ基本的な情報にバラつきを感じます。分からないことが多く、一つ一つ基本情報を押さえる上で、新聞紙面にしかない報道や保持期限の短いテレビ報道の保存は、非常に参考になります。
山本さん、コメントありがとうございます。
脱北するために(脱北後の潜伏生活その他の費用も含め)、相当な借金を背負う実態は過去にも報じられていました。この点、言葉足らずでした。御指摘ありがとうございます。