2007年01月05日

2006年12月17日付のNYタイムズ紙について

 昨年12月17日付のNYタイムズ紙・オオニシ・ノリミツ記者による記事に関して、同日中に2ちゃんねる上にある訳文が公開された。そして、この訳文が正確ではないという指摘が昨年末にblog『おしゃべりSchwaetzerの飲んだくれな毎日』にてなされた。先ずは、出回ったという訳文についてmumurさんの記事を、原文は電脳補完録さんの一番目のリンクを、2ちゃんねるの訳文批判についてはSchwaetzerさんの記事を参照して頂きたい。(※1月7日15時頃追記:幾つかの項目に加筆し、リンクを追加した

mumurブルログ
(2006年12月17日)拉致問題を利用する日本の右翼 byノリミツオオニシ

電脳補完録
(2006年12月20日)「拉致問題は右翼が扇動」? NYタイムズ紙が誤解生む記事
(2006年12月28日)オオニシ記事に中山補佐官が反論投稿
(2006年12月28日)NYタイムズ 拉致問題「右翼扇動」記事 政治的偏見による日本批判
(2006年12月29日)「NYタイムズ拉致「扇動」記事 政府が反論文投稿


Web翻訳サイト
Excite:ウェブページ翻訳
Yahoo!:ウェブ翻訳
livedoor:英語サイト翻訳
OCN:翻訳サービス

おしゃべりSchwaetzerの飲んだくれな毎日
(2006年12月30日)だいたい、みんなあれこれ言うくせにもともとの英文ちゃんと読めてないんだよ。
(2006年12月31日)そろそろ「拉致ファッショ」に怒る時じゃね?

関連リンク
(2006年12月17日)増元照明からのメッセージ「強く抗議する!」



目次
1.2ちゃんねる訳の正確でない部分について
2.北朝鮮人権侵害問題啓発週間に関する記述について
3.安倍晋三首相に関する記述について
4.NHK国際ラジオ放送命令問題に関する記述について
5.松本京子さんの拉致被害者認定に関する記述について
6.特定失踪者問題調査会代表・荒木和博氏に関する記述について
7.松本孟さんに関する記述について
8.加藤紘一事務所放火事件に関する記述について
9.右翼集団の関与に関する記述について
10.感想


1.2ちゃんねる訳の正確でない部分について

 2ちゃんねる上で公開された訳文が多く参照された背景には、NYタイムズ紙の記事が会員制(?)で、ネットの即時性の観点および後日閲覧できる状況になかったことも関係していると思われるが、訳文に書かれた内容が全文ではなかったことは確かである。そして、誤訳と指摘されている部分がこれ。
 日本の外で、はるか昔に拉致はおきたのかもしれない(Outside Japan, the abductions may have played out long ago,) 。北朝鮮の指導者金正日が四年前、この犯罪を認めた後、五人の生存者を戻した。しかし今、この問題はいまだに燃え盛る問題であり、ナショナリストの政治家やグループによって毎日のニュースメディアをにぎわせている。彼らはこの話題で、平和憲法の放棄や学校で愛国心や道徳を教えるなど、彼らの大切なゴールへ向かうのと同じように激しく攻撃している。

 原文はこれ。
Outside Japan, the abductions may have played out long ago, after North Korea’s leader, Kim Jong-il, admitted four years ago that the crimes had occurred and returned five survivors.But here, they are still a burning issue, kept alive in the news media every day by nationalist politicians and groups that pound at the topic as firmly as their cherished goals, such as jettisoning the pacifist Constitution and instilling patriotism and moral values in schools.

 私が直訳するならこんな感じか。間違っていたら御指摘お願い致します。
 日本以外では、北朝鮮指導者である金正日が4年前にその犯罪が起きたことを認め、生存者5人を日本に返したあとは、拉致問題はもうずっと以前に終わってしまったことかもしれない。

 しかし日本国内では、拉致問題はまだ沸騰中の問題で、国家主義的な政治家や集団は、例えば平和憲法の破棄や学校で愛国心と道徳的価値を染み込ませることのような、彼らの心に抱く目標と同じくらいしっかりとその話題を強く打つことによって、毎日のニュースメディアの中で生かされた。

 産経新聞では、この箇所を『さらに「日本の国外では拉致などとっくの昔に言いふるされた」問題と指摘。』と紹介していた。この点は、私が原文を読んだ印象とは異なるものであった。もう少し慎重に伝えるべきではなかったかと思う。


2.北朝鮮人権侵害問題啓発週間に関する記述について
The people who usually show up at such events ― family members, their supporters, members of right-wing organizations ― waited for a special first-time guest: Prime Minister Shinzo Abe. “We can never compromise on the abduction issue,” Mr. Abe told the crowd. “I swear that my administration will tackle this as its top priority.”

 例えば、冒頭の北朝鮮人権侵害問題啓発週間(以下、人権週間)における集会の様子では、御家族や支持者の他にわざわざ右翼活動家と書いて、右翼集団と安倍首相の関係を仄めかしているが、人権週間の集会の中には拉致問題・特定失踪者問題以外にも脱北者や強制収用所問題についても講演もなされていた。北朝鮮の人権問題全般について考える週間を、安倍首相と右翼、拉致問題と右翼の関係を推論することの枕に使っていることに先ず違和感を覚えた。

 人権週間期間中の各種講演・集会については下記の拙記事を参照して頂きたい。おそらく、私が取り上げ損なったイベントもあっただろうと思う。また、一部の講演はネット中継もされていた。その講演に関するBlue jewelさんのエントリーについてもリンクしておく。

(2006年12月08日)sokの日記:北朝鮮人権侵害問題啓発週間

(2006年12月13日)Blue jewel:北朝鮮の核実験と強制収容所ネットライブ
(2006年12月13日)Blue jewel:小川晴久先生から、集会の意味と参集のお願い

 ネット上では時々、拉致問題に「飽きた」と言う人達を目にする。しかし、そんな彼らが拉致問題以外の北朝鮮人権侵害状況に関心を持っているのかといえば、そういう訳でもない。民放の情緒的北朝鮮報道ばかり槍玉に挙げられるが、例えば昨年は『NHKスペシャル』にて「対北朝鮮 なぜ圧力より対話なのか〜韓国の選択〜」、『NHK BS世界のドキュメンタリー』にて「北朝鮮 中国経済支配の実態」といった北朝鮮関連番組が幾つか放送された。上記のネット配信講演もあった。知ろうとしない者ほど、軽々しく「飽きた」と言う。関心があるならば、当然、この辺りは押さえていなければならないのだが、実態は反「ネット右翼」止まりの彼らにそれを求めるのは酷かもしれない。


3.安倍晋三首相に関する記述について
By championing this one cause, Mr. Abe rose from obscurity to become prime minister three months ago. But Mr. Abe, who has backpedaled on economic changes undertaken by his popular predecessor, Junichiro Koizumi, has begun to plummet in the polls. To survive politically, he will probably have to keep leaning on the abduction issue.

 この部分の冒頭、これではまるで安倍首相が総裁選の直前に拉致問題を持ち出して、急に注目されたかのような印象を与える。しかし、実際にはポスト小泉レースとして「麻垣康三」と言われて注目されていたのだから、少なくとも昨年7月21日に福田康夫氏が不出馬を表明するより前には、日本国民に注目されていたといえる。2000年7月には官房副長官に就任しており、その後、小泉内閣で官房副長官、自民党幹事長、自民党幹事長代理、党改革推進本部長と役職を経て、2005年10月からの第3次小泉改造内閣では官房長官に就任している。他の候補者に較べて当選回数と大臣経験・党役職経験の上で見劣りするが、2006年12月17日の3ヶ月前に無名から急に首相になったように伝える記事は、事実に即しているとは思えない。

 拉致問題との関係でいえば、有本恵子さんの御両親が安倍事務所を訪れているのは1988年の秋である。この時、飯塚という秘書が応対しているが、安倍首相も当時、父・晋太郎氏の秘書として働いていて、拉致疑惑があることをこの時点で知っていたと考えられる。同じ頃、有本嘉代子さんは地元の土井たか子議員の事務所にも頼っているが、何の連絡もなかったという。1993年、議員になった安倍氏は衆議院第一議員会館にて飯塚秘書を介して有本明弘さんと面会している。安倍首相と拉致問題の関係を最も古く遡るならば、この時期ということになる。1997年4月には発足した拉致議連に名を連ねているし、2002年9月17日の日朝平壌会談には小泉首相に同行している。この点、拉致問題を擁護することによって2006年12月17日の3ヶ月前に無名から急に首相になったように伝える記事は、事実に即しているとは思えない。

 知日家のオオニシ・ノリミツ記者が、“日本国内で今でも沸騰中の”拉致問題に関して、このような基本的事項について知らなかったとは考えにくい。


4.NHK国際ラジオ放送命令問題に関する記述について

 NYタイムズ紙は政府のNHKに対する国際放送命令問題についても触れている。
In a move that raised concerns about the news media’s freedom, Mr. Abe recently ordered the public broadcaster, NHK, to further emphasize abductions in its international radio broadcasts. NHK agreed, even though it had already been devoting about a third of its news content to the topic in the first nine months of this year, according to NHK.

 国際放送は放送法第9条「自主放送」と、第33条「命令放送」からなる。命令放送自体は法が定めていることであり、直ちに表現の自由との関係で問題になるものではないと思うが、放送法第33条には命令権限を制約する文言がないために、今後、政府によって恣意的に運用されたり、政府からの指示がなくともNHKが配慮したりすることで、報道の自由が損なわれるおそれがある。その点について警句することは妥当だと思う。

 ただ、今年の最初の9ヶ月間で既にその話題にニュース内容の約3分の1を注ぎ続けたと言われても、拉致被害者家族や特定失踪者問題調査会が求めているのは放送の量ではない。紙幅の都合もあるだろうが、そういう所で「その上さらに」という印象を与えるのは、妥当だとは思えない。表現の自由の観点から政府の動向は注視しなければならないが、せめて、当事者の求めているレベルについては認識して頂きたい。以下に、特定失踪者問題調査会の荒木和博氏のblogの該当する記事をリンクしておく。

(2006年11月09日)荒木和博BLOG:「放送命令」答申について
(2006年12月27日)荒木和博BLOG:対北放送


5.松本京子さんの拉致被害者認定に関する記述について
The National Police Agency announced last month that it had identified yet another Japanese abductee, Kyoko Matsumoto, the 17th. The police offered no fresh evidence to back up its announcement. Its chief, Iwao Uruma, said simply of the abduction issue, “I want to send a signal that Japan has not forgotten about it.”

 2006年11月17日に松本京子さんを拉致被害者認定した件について、警察庁が新証拠を示さなかったことを指摘している。しかし、そもそも拉致被害者認定の要件が厳格過ぎるという批判があるにも拘らず、そちらについては記事中では一切触れられていない。拉致認定の外形的要件とは(1)北朝鮮の国家的意思が推認される(2)本人の意思に反する(3)北朝鮮に連れて行かれたの三要件で、これを厳密に求めるのであれば「よど号」メンバーに欺かれて拉致された人達も、朝鮮総連系の中華料理屋で働いていた人も拉致認定できなくなる。北朝鮮当局が認めない限りは。

 警察庁は誤謬を恐れて慎重になっているのかもしれないし、また、誤りだった場合に北朝鮮に同調して拉致問題を相対化しようとする人達が国内にいることも確かであろう。NYタイムズ紙は2002年9月17日の日朝平壌宣言以降、これまでに4年間でたった2人しか拉致認定されていない(特定失踪者リストからは1人目)という現状をどう見るのか。なお、電脳補完録さんの下記記事によれば、松本京子さんの拉致認定については、公安当局が無線傍受した電波の周波数と分析の結果明らかとなった発信源、そして鳥取県の貿易会社関係者の証言が決め手となったとある。

(2006年11月18日)電脳補完録:松本京子さんを拉致と断定 松本さんの母「これでまたあの子も帰ってきます」


6.特定失踪者問題調査会代表・荒木和博氏に関する記述について
At a Sunday rally in Yonago, attended by the mother and a brother, right-wing supporters offered encouragement but also expounded on pet causes. Kazuhiro Araki, national leader of the Investigation Commission on Missing Japanese, a private group, harshly criticized postwar Japan’s exclusive emphasis on self-defense and rejection of offensive weapons.

“This is nothing but a complete delusion,” he said.

Later, in an interview in Tokyo, Mr. Araki said he believed the decision to name Ms. Matsumoto was a political one. “I think there was almost no new information,” he said of the police investigation. “The Abe administration came into power and told everyone to do something, and so the police offered this card.”

 特定失踪者問題調査会代表の荒木和博氏へのインタビューにおいて、松本京子さんの拉致認定が安倍政権の政治的意図によるものだという話題が紹介されている段落。荒木氏に関する説明として「戦後日本の矛盾する<自主防衛の重視と攻撃兵器の拒絶>を厳しく批判した」とあるが、この段落は松本京子さん拉致認定における安倍政権の政治的意図に関するものであり、荒木氏の歴史観や思想傾向は関係ない。(※文中の<>は見易さのためで、原文にはありません)

 次の段落で紹介される松本京子さんの御兄弟である松本孟さんのコメントでは拉致問題を政治利用する国家主義者が批判されているが、それへの伏線として用いているような紹介文である。荒木氏の歴史観や他の事案に関する思考に拘って、彼の救出活動自体に色を付けるのであれば、彼に代わって活動する左派がいるのかという点にも言及すべきではないか。また、先の週刊現代記事を巡っては、荒木氏は安倍政権や蓮池薫さんとも立場を異にしていた。彼の立場はあくまで特定失踪者救出にあると見るべきだろう。

 なお、荒木氏へのインタビューやこの後に出てくる松本孟さんのコメント、中山恭子氏や佐藤勝巳氏のインタビューに関しては、それが如何なる文脈でなされた発言なのかが不明である。当該記事で紹介されたような一、二文のためにインタビューしに行ったのであろうか。もっと長い対話の中から一部分を抜き出した可能性もあるので、その点については判断を留保しておく。


7.松本孟さんに関する記述について
In an interview inside his home in Yonago, Hajime Matsumoto, 59, the brother, said the family was relieved that Ms. Matsumoto had finally been recognized as an abductee. He said he felt uncomfortable that nationalists were trying to advance their causes through unresolved abductions, but he was also philosophical about it.

“In a sense, that can’t be helped,” he said. “For example, if they try to work on educational issues and constitutional revision without the abduction issue, I think it would be extremely difficult to make a breakthrough in Parliament.”

“It’s easier for them to put a substantial agenda on the table and place an issue like the abduction issue on top, grouping four or five issues together,” he said. “It’s a means to an end.”

 荒木氏に関する記述に続く松本孟さんのコメントは、拉致問題を教育問題や憲法改正の実現の手段にすることについて、不愉快(Uncomfortable)だと言っている。この点につき産経記事および2ちゃんねる訳が省略していることについては反省すべきだと思う。

 拉致問題に関して言及する者が他の時事問題について全く言及できないという主張であればそれは行き過ぎだし、政府は拉致問題が解決されるまで他の案件を進めることは許されないという主張であればこれも妥当ではないが、明らかに売名目的の政治家がいたことは蓮池透さんも著書で指摘している。2003年5月7日の第五回国民大集会でのこと。
 そんな中に、今まで見たことのない国会議員が十数人、混じっているのが気になりました。拉致議連にも所属しておらず、家族会や救う会(北朝鮮に拉致された日本人を救うための全国協議会)と何の接点もなかった政治家が、「私も今後、より一層解決に向けて尽力したい」と、堂々と挨拶していたのです。

 ――やっぱり、こういう輩は跡を絶たないのか。

 私は舌打ちしたい思いでした。こういった拉致問題を自分のPRのために利用しようとする売名的な政治家は、何かあるたびに必ず現われるのです。

 どんな些細なことでも、我々に力を貸してくれるのであればいいのですが、何一つしないのにこういった公の場にだけ姿を現すというのは、どういう神経なのでしょうか。

蓮池透著『奪還 第二章 終わらざる闘い』25〜26頁

 取り組むべき政治課題が複数あって、それを同時並行的に処理するのではなく、他の政治課題のために拉致問題を利用している者がいて、拉致被害者や特定失踪者をこのように不安にさせるような論点の抱き合わせがあるのであれば反省しなければならない。

 ただ、少し気になったのは、松本孟さんが具体的にどの人物を想定して言ったのかということ。特定失踪者問題調査会の荒木和博氏は先述したように、昨年末に週刊現代の記事が話題になった際、特定失踪者問題の究明を優先する旨をblog上で示した人物である。(週刊現代記事に関する荒木氏の見解への賛否はともかく)元拉致被害者であった蓮池薫さんや日本政府と見解を違えても、特定失踪者問題の進展を考えている人物である。松本京子さんが特定失踪者から拉致認定されるまでには、荒木氏のような人物の尽力がある。

 それらの事柄を考慮した際、松本孟さんの発言は荒木氏やNYタイムズ紙で名前が挙げられた人達(安倍首相、中山恭子氏、佐藤勝巳氏、今岡祐一氏など)に向けられたものなのか。それとも、別の人物を想定してのものなのか。当該記事における荒木氏の紹介の仕方を見ると、松本孟さんの認識とオオニシ・ノリミツ記者の認識にはズレがあるのではないかという印象を受ける。

(2006年12月26日)荒木和博BLOG:「週刊現代」の記事
(2006年12月28日)荒木和博BLOG:蓮池さんのこと


8.加藤紘一事務所放火事件に関する記述について

 その後、NYタイムズ紙の記事は、教育基本法改正やタウンミーティングの話題、メディアが拉致問題に右翼活動が関与していることに触れないこと、中山恭子氏へのインタビュー、野党政治家やジャーナリストや学者の間で拉致問題批判がタブー化していること、大阪外国語大学の杉田米行教授のコメントに触れた後、昨年8月に起こった加藤紘一事務所放火事件について記述している。拉致問題が、内政と外交の全般にわたる政府のタカ派政策に対する日本人の穏健な批判を黙らせた一例として。
The issue has silenced Japanese moderates critical of the government’s overall hawkish domestic and foreign policies.

One exception, Koichi Kato, a senior lawmaker in Mr. Abe’s Liberal Democratic Party, has been an outspoken critic of hard-line policies toward Asia and of the resurgent nationalism in Japan. In August, a right-wing official angered by Mr. Kato’s comments burned down his family home before trying unsuccessfully to commit hara-kiri.

“It’s not only the abduction issue, but also anti-China and anti-North Korea sentiments,” Mr. Kato said of the subjects fueling Japanese nationalism, choosing his words cautiously.

 尤も、加藤紘一事務所放火事件は小泉首相の8.15靖国参拝後に起こった出来事(8月15日の午後5時50分頃)であって、直後の革新派からの批判もその関連で言われたものである。拉致問題とも、安倍首相とも関係がない。また、放火犯である堀米正広が所属していた大日本同胞社は、政治資金収支報告書要旨によれば平成12年(2000年)から活動の実態がない。そのような団体の構成員の暴挙を、拉致問題と右翼活動家の関係を指摘する文章で持ち出すのは妥当であるとは思えない。政治利用というのであれば、この記述こそが無関係なものを関連付ける政治利用とはいえないか。

(2006年08月18日)sokの日記:加藤紘一事務所放火事件に関するメモ

 なお、加藤紘一議員と北朝鮮の関係といえば、村山政権下での各種の北朝鮮支援が挙げられる。1995年6月には有償・無償併せて30万トンのコメ支援、同年9月には水害に対する50万ドルの支援金、10月には第二次コメ支援で20万トンが日本から北朝鮮に供与されている。加藤議員はこの時の自民党政調会長で、北朝鮮のエージェントとの噂もある吉田猛氏を事務所員としていたが、この時期、拉致問題は何ら進展していない。というように、反対方向から点と点を持ち出して線にすることだって出来る。


9.右翼集団の関与に関する記述について

 以下、太字にした部分について簡単に訳してみる。誤りがあれば御指摘下さい。
Katsumi Sato, 77, leader of the National Association for the Rescue of Japanese Kidnapped by North Korea, a private organization with chapters nationwide, said he was focused only on the abductees. But in an interview, he said many of his group’s regional leaders were also active in Nippon Kaigi, Japan’s largest nationalist organization, which rejects postwar pacifism, embraces the imperial system and defends Japan’s past wars in Asia.

“In the regions, there are some right-wingers in our movement, a fact which makes it look extremely tilted to the right,” said Mr. Sato, who was invited to meet Mr. Abe a few days after he was elected.

 救う会の佐藤勝巳氏の紹介では、救う会の地方リーダーの多くが日本会議の活動にも参加していて、戦後の平和主義を拒絶し、天皇制を信奉し、アジアにおける日本の過去の戦争を擁護している、と書いている。

In Yonago, Yuichi Imaoka, 81, is the head of both the rescue association and Nippon Kaigi. In Mr. Abe, Mr. Imaoka said he believed he had a leader who would redress what he saw as the perversions of postwar Japan, like the overemphasis on individualism and loss of male prerogative, which, to him, had given women and children too many rights.

Like many in Nippon Kaigi, Mr. Imaoka credits America, not for bringing democracy to Japan, but for emasculating it with pacifism.

 今岡祐一氏の紹介では、彼が日本会議と救う会(鳥取)の両方の代表であり、彼が安倍首相のことを、個人主義の偏重や女性と子供に過度に権利が与えられたことによる男性特権の喪失のような戦後日本の逸脱を正す指導者であると信じている、と書いている。また、アメリカは日本に民主主義を持ち込んだのではなく、平和主義(戦争放棄)でもって弱らされたと信じている、と書いている。

“Isn’t it ridiculous that it’s a taboo to have a debate on whether we should have nuclear arms?” he said, echoing Mr. Abe’s top aides. “We should discuss it freely.”

 最後は、核兵器保有に関する議論がタブーであることはおかしくないかと拉致問題に関与している人が言っているという話。核保有について自由に議論すべきだと言っていることを事実のみ指摘しているが、要は拉致問題に関与している人達が核保有論議に言及することを問題視している文脈。

 確かに、各種の拉致被害者救出の集会は保守色が強い。拉致問題について考える保守系ブロガーの間でも、右翼団体が集会に参加して機関紙や定期購読用紙を配布していたことへの批判はあった。しかし、革新派やオオニシ記者が言うところの国内穏健派が拉致被害者救出に無関心か冷淡である現状を抜きに、点と点を繋ぐ形で、右翼やタカ派政治家が拉致問題を政治利用していると主張することには賛同できない。関与もせずに何を言っているのか。

 また、ひとたび拉致被害者救出運動に関与すれば、その他の時事問題について意見を述べることが許されないというのであれば、それは自由な言論市場とはいえない。保守派の側でも被害者家族に不信感を与えるような目的と手段の転倒は正すべきだが、“拉致問題に関わっている誰々は他の問題についてはこのような考え方だ”という手法で拉致被害者救出運動を貶めることは、拉致問題に関与した者は被害者全てが救出されるまで他の政治課題への発言が許されないという形で、救出運動への参加を萎縮させることになりかねない。

 拉致被害者救出運動に取り組んでいる人が、拉致が防げなかった背景には戦後日本の平和主義があると考えて、その考えを披露することに何の問題があるのか。対日・対南工作のために行なわれた拉致について、外国工作機関による日本国内での諜報活動に対処する法案を成立するよう訴えることに何の問題があるのか。拉致問題のみならず核やミサイルといった北朝鮮に関するあらゆる問題を考える中で、国防に対する警鐘を鳴らすことは許されないことか。核保有ではなく、核保有に関する自由な議論さえも許されないのか。

 「関わるなら黙れ」と言えるほど反右翼な人達が拉致問題に関わってきたのだろうか。


10.感想

 産経新聞および2ちゃんねる訳からは、松本孟さんに関する記述が省略されていて、この点については問題だと思う。ただ、改めてNYタイムズ紙の記述を読めば、それはそれで一面から点と点を繋いで線として伝えるものであり、原文自体が一方的な内容で読者に誤解を与える記述であることには変わりない。革新派の拉致問題に対する認識をよく表していると思う。政府の抗議は妥当だと考える。
posted by sok at 23:00| Comment(2) | TrackBack(2) | 日本人拉致事件 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
9.右翼集団の関与に関する記述について
の最後から2番目の段落
そその考え→その考え
 
Posted by 刻廉 at 2007年01月08日 23:06
刻廉さん、コメントと誤りの御指摘ありがとうございます。訂正しておきました。
Posted by sok at 2007年01月09日 07:56
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2007-01-08
Excerpt: どうでもいいが一言言わせろ。 →http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/Schwaetzer/20070106 2007年01月07日 r..
Weblog: おしゃべりSchwaetzerの飲んだくれな毎日
Tracked: 2007-01-08 11:13

[watch]オオニシ記事の恣意的な誤訳。
Excerpt:  いまさら気づいたのですが、古森義久氏も http://komoriy.iza.ne.jp/blog/entry/89611 で取り上げたし産経新聞や2ちゃんねるでも批判された、ニューヨーク・タイム..
Weblog: 黙然日記
Tracked: 2007-01-11 21:04
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