2006年11月25日

「言葉のチカラ」より用法

 元BC級戦犯の韓国人・朝鮮人(当時は日本兵)が名誉回復と補償を求めて提訴していた件で、東京高裁の判決と朝日新聞社の記事内容が矛盾している。朝日新聞「私の視点」欄に掲載された韓国・朝鮮人元BC級戦犯者「同進会」会長の李鶴来(イ・ハンネ)氏の主張の正否については、両者の内容が載っているmumur氏の検証エントリーを参照のこと。

(2006-11-22)mumurブルログ【朝日】元BC級戦犯朝鮮人吠える「最高裁も立法で救済せよと言っている!」 しかし判決文を見ると・・・

判決文(日本の戦争責任を肩代わりさせられた韓国・朝鮮人BC級戦犯を支える会HPより)


 李鶴来氏の主張にある『しかし裁判所も私たちへの「不条理」を認め、判決の中で「適切な立法を講じることが期待される」と述べている。』という部分が、下記の実際の判決理由と一致していない。
 右の事実関係によれば、上告人李鶴来ら七名の者が被った犠牲ないし損害は、第二次世界大戦後、戦犯として、前期刑の執行を受けたことによって生じたものであり、これは、我が国の敗戦に伴うものといわざるを得ないところ、このような犠牲ないし損害に対する補償の要否及びその在り方については、国家財政、社会経済、損害の内容、程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解するのが相当である(中略)。上告人李鶴来ら七名の者が被った犠牲ないし損害の深刻さにかんがみると、これに対する補償を可能とする立法措置が講じられていないことについて不満を抱く上告人らの心情は理解し得ないものではないが、このような犠牲ないし損害について立法を待たずに当然に戦争遂行主体であった国に対して国家補償を請求することができるという条理はいまだ存在しないものといわざるを得ず、憲法の諸規定からこのような条理が導き出されるものでもないから、これと同旨を説示する原審の判断は正当として是認することができる。

 このような不一致は何故起こるのか。同じ単語でも、日常生活上の用法と専門分野での用法が異なるものがある。「条理」がそれにあたる。goo 辞書で「条理」を検索すると、第一の用法として『社会における物事の筋道。道理。』が出てくる。これが李鶴来氏の用法。

 第二の用法は『〔法〕 法の欠缺(けんけつ)を補う解釈上および裁判上の基準。社会通念・公序良俗などとも表現される。』というもの。判決理由における「条理」は法律用語であるから、こちらの用法である。この法律用語としての「条理」については、裁判事務心得第三条に規定がある。

太政官布告第103号(裁判事務心得)
第三条 【条理法】
一 民事ノ裁判ニ成文ノ法律ナキモノハ習慣ニ依リ習慣ナキモノハ条理ヲ推考シテ裁判スヘシ

 成文化された法律がなく、不成文の慣習法もなく、判例にも適切な裁判規準がない場合に、裁定するにあたって参照すべきものが「条理」である(但し、条理の法源性を否定する説もある。)。したがって、ここでの『条理はいまだ存在しない』とは、李鶴来氏が言うような「不条理」を意味するのではなく、成文法や慣習法がない時に裁定上参照すべき「条理」がないということで、立法措置なしに補償請求を可能とする「条理」がない、ゆえに、補償請求は認められないという判断である。

 判決理由は、条理云々の直前に『上告人李鶴来ら七名の者が被った犠牲ないし損害の深刻さにかんがみると、これに対する補償を可能とする立法措置が講じられていないことについて不満を抱く上告人らの心情は理解し得ないものではないが』と原告側を慮っていることから、李鶴来氏が混乱した可能性もあるが、その場合、原告側の多数の弁護士は一体何をしていたのか。判決理由が意味するところを、原告に正確に伝えていなかったのではないか。

 そして、事実に反して原告側の言い分を載せるだけの朝日新聞社の報道の在り方も問われる。仮に、原告側に勘違いがあったとしても、それは何らの補足(注釈)も無しに判決理由と正反対の内容を載せたことの言い訳にはならない。

 法律用語としての「条理」の意味を知らなくても、判決文に当たって検証できている人(例えばmumur氏)が現に存在することから、判決文を適切に読んでさえいれば、一般的な「条理」の意味に遵ったとしても、このような間違いは必ず起きるものではないといえる。その点で、朝日新聞社は二重の意味で誤ったといえる。もし、朝日に、判決理由を都合よく継ぎ接ぎして煽動する意図がないのであれば、この点は直ちに訂正し、誤解を与えたことにつき謝罪すべきだろう。

 なお、原審に関しては保守派からは下記のような批判もある。
新聞の宅配問題を考えるHP:「条理」裁判は法治国家の自殺
posted by sok at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 憲法・裁判 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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