ネット上には、在日朝鮮人の生活保護費について「一人当たり説」と「一世帯当たり説」の二説があり、月額約17万円という点では共通している。そして、この月額約17万円の受給は、脱北者支援の現状に関する朝日新聞記事を根拠としているようで、他に根拠となるものが見当たらない。そこで、先ず、この朝日記事を見ることにする。
→(2007年5月25日追記)現在、上記リンク先は『「民主」「社民」「共産」の反日プロパガンダ』という内容に書き換えられている。URLはそれまでと同じである(「脱北−朝日」と読める)にもかかわらず、内容は従軍慰安婦問題に変更されている。批判を知って内容を差し替えたのだろうか。念の為、変更前と変更後の双方のURLのウェブ魚拓を採ることにする。
変更前のURL/「民主」「社民」「共産」の反日プロパガンダ(Web魚拓)
変更後のURL/(2005年03月10日)朝日:「脱北者支援を」 大阪の女性、実名で心境告白(Web魚拓)
一人当たり説と一世帯当たり説
上記、朝日新聞記事によれば、55歳の脱北女性は24歳の長女と二人(?)で暮らしており、「月約17万円の生活保護と、支援者からのカンパが頼りだ。」という状況である。この記事の状況を基礎にして、かつ受給「一人当たり説」を採用した場合、長女の受給分と併せて17万円ということになり、両説の基礎に当たる月額約17万円受給という点が崩れることになる。よって、彼らの説の基礎を崩さないためには「一世帯当たり説」が妥当と考える。北朝鮮人権法案wikiのflashでも一世帯当たり説を採用している。「一人当たり説」は一種の伝言ゲームのようなものだろう。
ということで、前記事で引用したレス299氏の論は早速崩れたことになる。受け入れ人数を(便宜上とはいえ)最初から、30万人に設定して30年間固定している段階で、かなり雑な説である。「一人当たり説」を主張する人は注意して欲しい。なお、本記事の趣旨は、朝日新聞記事に描かれた脱北女性がどのような人物であるかを確認することであり、一人当たり説と一世帯当たり説の詳細については前記事を参照のこと。
朝日記事の脱北女性とはどのような人物か
朝日の記事を読む限り、この脱北女性は両親が日本人であり、現在は朝鮮籍である。しかし、将来は日本国籍を取得したいと考えているとのこと。北朝鮮人権法反対派は財政的理由として当該記事を持ち出す時、この脱北女性の生い立ちを想定しているのだろうか。両親が日本人であり、日本国籍取得を希望していることを。記事中の「月約17万円の生活保護と、支援者からのカンパが頼りだ。」という一文にのみ反応しているように思える。
朝日記事から脱北女性の生い立ちに関する部分を纏めてみる。なお、記事中の人物の年齢は当該記事の書かれた2005年3月10日時点の年齢。
出身:広島市
両親:日本人
年齢:2005年3月10日の時点で55歳
国籍:朝鮮籍(幼少時に在日朝鮮人夫婦の養子となり現在に至る)
略歴
1961年5月:帰国事業で養父母とともに北朝鮮北東部へ渡る。
1977年 :同じ帰国者の工場労働者と見合い結婚。
日本の親類から現金や衣類などが届き、比較的豊かな生活を送る。
1993年 :配給が止まる。
1998年 :夫が病死。
2002年 :闇市の価格が暴騰、食べ物の入手が困難に。日本からの仕送りも途絶える。
2003年2月:長男(27歳)が家族に内証で脱北し韓国へ。
「中国に行けば日本に(仕送りを催促する)電話がかけやすい」
2003年末 :長男が依頼した脱北ブローカーの手引きで、長女(24歳)とともに豆満江を渡る。
2004年8月:中国経由で日本に辿り着く。43年ぶりに日本の土を踏む。
養父の親類がアパートを訪ねて来て、面倒を見られない旨を告げる。
2005年3月:現在、大阪府八尾市に支援者が用意した2部屋のアパートで暮らしている。
備考
・体の弱く、ほとんど外出しない。
・食事は大抵、茶碗半分ほどの御飯とキムチで済ませている。
・月額約17万円の生活保護と支援者からのカンパで生活している。
・首相の政策に関して討論番組で賛否激しく議論していることに驚いている。
・支援者がくれた電話機は使い方が分からないので使っていない。
・自動販売機でジュースを買う方法を覚えられない。
・長女は北朝鮮生まれ。24歳。
・週2回、ボランティアの日本語教師のもとに通う。編入できる高校を探している。
・2人は現在、3年ごとに更新が必要な在留特別許可を受けている。
・将来は日本国籍を取得し、ソウルに住む長男も呼び寄せたい。
・「いまの生活保護額では厳しい」と悩む。
この朝日記事には他にも以下のような記述もある。参考のため引用しておく。
日本に住む脱北者の人数について、支援団体は約70〜80人と推測している。外務省は総領事館などに保護を求めてきた脱北者のうち、元在日朝鮮人や日本人配偶者について日本行きの便宜を図っているが、中国側に配慮し、極秘裏に行われているとみられる。大部分は「自分が日本に逃げたことが分かれば、北朝鮮に残した家族が処罰される」と、身を潜めているのが実情だ。
【関連記事】
(2006年06月23日)在日朝鮮人の生活保護費は月額17万円か
(2006年06月25日)在日朝鮮人の無職者数と生活保護費について
【追記:2006年07月03日】
(2006年07月02日)聯合ニュース:日本居住の脱北者は100人余り、専門家明らかに
【ソウル2日聯合】日本に居住する脱北者は100人余りに達すると、日本の東北大学教授を務めるイ・インジャ教授が2日、脱北者が運営するインターネットラジオ放送「自由北朝鮮放送」のインタビューで明らかにした。
そのほとんどは、1959年に始まった北朝鮮帰国事業で日本から北朝鮮に渡った在日朝鮮人とその家族で、北朝鮮で暮らした後、日本に戻った。文化と言語の違いに苦しんだ人もいたという。主に東京や大阪などの大都市周辺に居住しており、生活保護の対象者に指定されていたり民間団体の支援に依存していると説明した。
北朝鮮帰国事業により、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)所属の在日朝鮮人と日本人の家族など、合計9万3000人余りが北朝鮮入りしたといわれている。