2006年06月19日

金正日政権崩壊とは

 金正日政権が崩壊するとはどういうことだろうか。存続するとはどういうことだろうか。経済制裁をするということはどういうことだろうか。太陽政策をするということはどういうことだろうか。ネット上の言論を観ていると、保守も革新も、その辺を実際どう受け止めているのかわからない。伝わってこない。脱北者受け入れへの反発から北朝鮮人権法成立に反対する人達は、では、北朝鮮問題にどういう展望を描いているのだろうか。


 例えば、金正日体制崩壊というとき、その如何なるシナリオにおいても少なからず難民は発生することが考えられる。米国による北爆でも、中国による併合でも、北朝鮮内部のクーデターでも、第二次朝鮮戦争でも。難民を受け入れるのが嫌なら、韓国革新勢力を見習って太陽政策に徹するのか。北朝鮮の現状を維持しつつ、将来、北朝鮮国民の教育水準・生活水準が向上して、統一を果たしても経済的・治安的に大混乱が生じなくなるまで経済援助するのか。

 しかし、北朝鮮国民の教育水準・生活水準の向上は、先軍政治が改められない限り無理である。太陽政策といっても北朝鮮は先軍政治の国なので、日本の援助は対日・対米・対韓用の核とミサイル開発に利用されるだろう。この北朝鮮の核開発・ミサイル開発を押し止めるために、六カ国協議を開いて核の平和利用について議論がなされる。難民の受け入れが嫌なら、核開発・ミサイル開発に転用されることを承知で経済援助をするか、延々と六カ国協議を繰り返すしか現状では方策がない。

 仮に、南北朝鮮が統一を果たしたとしても、当分は治安も経済も混乱するだろう。現在の北朝鮮と韓国の対日姿勢を見ていれば、統一直後の混乱を収拾するために反日で国家をまとめるということは充分考えられる。そうしてできた統一朝鮮が反日国家であれば、日本人拉致問題の解決が棚上げされるだろうことも考えられる。統一朝鮮の下での拉致問題解決は、現実的には遠過ぎる道程である。


 また、拉致問題が脱北者問題と同じ人権カテゴリーで括られるのが嫌ならば、核・ミサイル・人権とセットで国際社会に訴えかけることは断念しなければならない。この場合は、核・ミサイル問題とは切り離して、拉致問題だけを日朝二国間協議で解決することになる。二国間協議においては、北朝鮮側は当然に過去カードを持ち出して賠償金あるいは経済協力金を要求するだろう。金丸訪朝団と金日成が交わしたとされる「戦後の南北分断に対する賠償」も込みで。

 しかし、先軍政治の下では、賠償金という名目にせよ経済協力金という名目にせよ、日本からの援助が核開発・ミサイル開発に転用される可能性は極めて高い。そのような状況は、核とミサイルの拡散を厭う米国と日本の同盟関係を緊張させるだろう。現在の金正日政権の下で日朝二国間協議による国交正常化を進めるのであれば、米国との同盟関係の在り方まで考え直さなければならない。

 国内に目を向ければ、ネット上の保守言論でよく目にする論理は「経済援助は半島唯一の合法政府の韓国に対して既に行っている」というものがある。北朝鮮利権・賠償利権を許さない強硬姿勢である。保守派がこの姿勢を貫くのであれば二国間協議も行き詰る。拉致問題だけを議題にするのであれば、北朝鮮には拉致被害者の安否確認や帰国を積極的に行うメリットがない。仮に、日朝国交正常化を果たしても、国交正常化は日本人の北朝鮮国内での自由な行動を保証するものではない。日朝国交正常化過程での拉致問題解決も難しい。


 圧力に力点を置いた対話を実現するために各種法律の制定を優先すべきとの言説はどうか。例えば、憲法改正一つをとってみても、発議には衆参両院で総議員の3分の2以上の賛成が必要であり、かつ、国民投票で過半数の賛成がなければ成立しない。朝日新聞や毎日新聞の購読者の中にも賛成する人が出てくるほど世論が高まらない限り、憲法改正は難しい。

 しかも、国民投票にかけて否決されれば、次は何年先に提案できるか解らない。憲法改正の提案とは、そういう伝家の宝刀である。国民投票法案の審議でさえ先送りされる現状においては、憲法改正は不可能である。仮に、国民投票法が制定されても、世論の大半が改憲派になるまでは与党も発議を控えるだろう。そして、憲法改正が現実味を帯びてくれば、護憲派によってネガティヴキャンペーンが展開されることは容易に想像できる。

 また、憲法改正に国民の大多数が賛成するということは、保守派のみならず革新派寄りの人達の賛成票も要するということであるから、改正内容には革新派寄りの人達の価値観も反映されることになる。論点は憲法9条に留まらない。硬性憲法である日本国憲法の下では、保守派の理想通りの憲法改正など有り得ない。そこまで思考しての改憲論であれば構わないが、ネット上の保守言論を見ていると、そこまでは想像していないように見受けられる。


 さて、それで、憲法改正を待って、共謀罪成立を待って、スパイ防止法制定を待って、入管法改正を待って、指紋押捺義務復活を待って、その他あれもこれも待って待って待って待って、拉致問題解決はいつになるのだろう。拉致被害者家族には寿命という期限がある。北朝鮮の民主化や日本国内の法整備を全て待っていられる状況ではない。見切り発車も覚悟する必要がある。

 拉致問題は、所謂カッコ付きの「人道問題」ではない。今、日米が拉致問題と脱北者問題を人権問題として一括りにして、国際社会に提起している。核やミサイルの問題に劣後していた拉致問題が、一つステップアップするかどうかという局面である。米国も少数ではあるが受け入れている脱北者を、拉致被害の当事国である日本が受け入れないというのであれば、人権問題として米国や国際社会に協力を求めることも困難になる。

 理想をいえば、脱北者は韓国が受け入れるべきだろう。言語的にも文化的にも民族的にも、最も軋轢の少ない解決法である。けれど、そんな保守派の理想が親北の盧武鉉政権に通じるはずもなく、韓国にしても中国にしても、金正日政権の崩壊による難民流入という爆弾を破裂させたくないという事情がある。保守派が韓国の建前を盾にして脱北者支援を拒否するのも一手ではあるが、それならば人権という括りで国際社会に訴える手法に代わる拉致問題解決案を提示する必要がある。脱北者支援を拒み、難民流入も拒むのであれば、韓国の太陽政策を倣うしかない。


 保守派ばかりを批判しているが、では革新派はどうか。9.17以降、思考を改めたのかといえば、そんなことはない。全ての責任を独裁者である金正日に押し付けただけで、過去の言動への責任を果たしてはいない。社民党や共産党は、相変わらず拉致問題に関して何の役にも立ちそうに無い。しかし、彼らにこれまでの負債や怒りをぶつけた所で拉致問題は解決しない。

 ネット上の革新言論も相変わらずあてにならない。革新系blogを閲覧してみても、拉致問題に関する記述は殆どない。あったとしても、それは安倍晋三批判や拉致被害者への誹謗中傷である。保守言論・嫌韓言論への揚げ足取りとして拉致問題を語る様は観たことがあるが、それだけである。そこで終わり。保守言論に対するシニシズムという立場でしか拉致問題を捉えようとしていない。「ラチラチ詐欺」という表現を使うブロガーもいた。果ては日本の原子力行政や統一教会、戦前の満州人脈と絡めた陰謀論。

 そういう訳で、今さら革新派には期待していない。問題はそういう低劣なネット上の革新言論に保守言論が引き摺られることである。ネット上の議論を幾つか見ていると、保守派の中には、人権という価値観について革新派への反発という他律的な態度でしか捉えようとしない者が多い。革新派の書き込みを観て、人権という言葉に改めて拒否反応を示す。しかも、ネット上の嫌韓的風潮も未だ収まりそうにない。となれば、北朝鮮人権法案wikiのような杜撰な論でも平気で受け入れられるのだろう。


 気掛かりなのは、テポドン2号発射準備などの北朝鮮関連情報が報道されても、保守派の嫌韓・嫌北・反反日感情は高まるものの、拉致問題解決には一向に興味が示されないこと。いや、横田早紀江さんの訪米や滋さんの訪韓といった個別の事柄については讃えたり、拉致被害者の救出を願ったりしている。家族会に対して冷淡な韓国政府や国内の革新派に対しては憤っている。そういう情緒的なところは伝わってくる。

 それなのに、いざ問題解決の方策が提示されれば、また嫌韓・嫌北・反反日感情が表れて思考停止に陥る。「テポドンを撃ってきたら経済制裁をしてやれ」とか「その時は金政権崩壊」とか、威勢の良い書き込みがある割に、金政権崩壊で発生する難民問題までは考えているように見えない。その先の議論がない。

 北朝鮮問題においては、少なくとも保守派の理想が全て通ることは有り得ない。保守の論理で中国・韓国・北朝鮮だけに負担させて解決するという理想は、国際社会では通用しない。そういう時の覚悟が保守系ブロガーやコメンターの言説からは殆ど窺えない。隣に貧しい独裁国家が存在するということは、そういう覚悟が迫られることだと思う。2002年9月17日から3年9ヶ月が過ぎたのに、保守派の拉致問題への思考は9.17直後で止まっている。
posted by sok at 13:59| Comment(0) | TrackBack(1) | 北朝鮮人権法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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