2006年06月18日

北朝鮮人権法案 反対派まとめサイトへの違和感

 ネット上で北朝鮮人権法案を検索すると、上位に『北朝鮮人権法案wiki』という反対派サイトがHITする。同法案への批判を「法整備」「インフラ整備」「財政的問題」「国家としての責任」の4点に纏めており、かつ、漫画やflashで批判のポイントを解り易く説明している。先日、議論した人達も、このwikiと殆ど同じ批判をしていたので、これら4点について見てみる。

【目次】

1.法整備の問題について
2.インフラ整備、難民の居住環境について
3.財政的問題について
4.国家としての責任について
5.北朝鮮の人権問題関連リンク集


ジャーナリスト宣言 @Wiki - 北朝鮮人権法案

1.法整備の問題について

法整備
 スパイ防止法や共謀罪がないのにどうやって国民を守れるのか?政治家達がよくヨーロッパを引き合いに出すが、どの国にもしっかりとした法整備がなされているから移民・難民を受け入れることができる。今のまま受け入れれば、日本国民を守る法律はもちろんのこと難民を工作員から守る法律はなにもありませんよ?これで道義的にも国際的にも責任を果たすことは出来ますか?


 「どうやって国民を守れるのか?」とは、どういうことだろうか。「誰から」という部分を二つに分けて検討してみる。

(1)難民から国民を守るという意味の場合。言語も文化も違う人達が日本社会に馴染めず非行化することを前提に論じているのだとすれば、その非行化自体はそもそもスパイ防止法や共謀罪の制定を待つ必要はなく、それらは現行刑法でも取り締まれる。

(2)スパイ・工作員から国民を守るという意味の場合。スパイ防止法や共謀罪が持ち出されるからには、難民に紛れ込んでいるスパイ・工作員を指しているのだろう。しかし、国内に朝鮮総連が存在し、万景峰号など朝鮮籍の船が入港し、総連関連団体の不動産が税制上優遇されている状況を考えれば、現状でもスパイや工作員は日本に存在する。横田めぐみさん拉致は誰が手引きし、実行したのか。今さらスパイの脅威を論じるのは、危機感がなさ過ぎる。

 工作員が脱北者になりすまして政府の難民認定を経て入国するのと、この正規のルートを使わずに入国するのと、どちらが容易いかという点は気になるが、wikiの中の人は、そんなことは考えて無さそう。

 さらに、難民を工作員から守る法律がないことも懸念しているが、こういう法律は諸外国にはあるのだろうか。工作員との接触については公安が監視するのだと思うけれど。暴漢に襲われるような状況であれば、一般の警察官の職務範囲だろう。これらは新たな法律で対処するまでもなく、既存法律の運用でも充分に対応可能だと思う。


2.インフラ整備、難民の居住環境について

インフラ整備
どこに難民の人々を住まわせるんですか?この国にはただでさえ狭いのに、これから年に何万も発生する脱北者を保護する場所はあるのですか?また、そこで十分に社会適応の教育をすることはできますか?無教育で、日本語も話すこともできないで、あまつさえ政府が監視を続けることが出来ないと言ってますよ?


 日本は国土が狭いから難民を受け入れる余地がないという理由だが、少子高齢化や過疎化が指摘される昨今、国土の狭さが理由になるのだろうか。人口減少時代に何を言っているのだろう。ポイントは「年に何万も発生する脱北者」という点。wikiの中の人は、一年に何万人単位で脱北者が日本にやってくると考えているらしい。

 北朝鮮人権法案に反対している人の中には、10万人単位や1000万人単位で難民がやってくるとアジテートしている人もいるそうだが、北朝鮮の人口が約2300万人であるといわれていることを知らないのだろうか。仮に、脱北者1000万人説が実現すれば、金正日政権は崩壊している。

 10万人単位説の場合も、それは日本にやって来る数だけを考えてのことだろうから、米国や韓国、その他のアジア諸国、中国北東部に潜伏している人数を併せると相当なものになる。この場合でも、金正日政権は崩壊の危機に瀕している。

 幸いwikiの中の人は、1000万人単位説でも10万人単位説でもなく何万人単位説。けれど、何万人単位説でも状況はそう変わらない。累計で何万人に達することはあるかもしれないが、「年に何万も発生する脱北者」というのは、脱北が容易であるとの認識に立ってのことだろう。瀋陽事件の映像を観て「楽勝!」と思っているのだろうか。wikiの中の人は、支援するNGO職員の人数とか船や飛行機の手配とか考えたことがあるのだろうか。たぶん、考えて無さそう。

 ところで、1000万人単位説はどこから来たのだろうか。検索してみた。多分、これのことかな。

月刊『Voice』2003年9月号掲載「1000万人移民受け入れ構想」
「日本を「憧れの国」にしたい。 民主党若手の共同提案」


 これは一般的な移民・外国人労働者の受け入れについて、民主党若手議員の主張であって、北朝鮮人権法案にある脱北者支援とは違うのだけれど。もし、これが変容して伝わったのなら、伝言ゲームのノリで国政や国際政治を論じるようなもの。法案反対論者は意図的に「脱北者」「難民」「移民」「外国人労働者」「密入国者」「不正滞在者」などを混同しているように思える。繰り返しになるが、北朝鮮の人口は(ああいう国なので正確な人口統計はわからないが)約2300万人といわれている。

 wikiの中の人は、受け入れた難民の社会適応についても懸念を示している。これは、言語の壁に加えて、北朝鮮での生活水準・教育水準の低さから生活に支障が出て、非行化するのではないかということだろう。脱北して韓国で暮らす人の中にも社会に馴染めず、非行化する人達がいるという。言語的にも文化的にも民族的にも溶け込み易いはずの韓国でも生じる問題なのだから、受け入れたとしてもアフターケアを怠れば日本でも問題は起こり得る。

 この点は、日本の難民受け入れ実績の少なさを考えても、ノウハウの蓄積は(国民の側にも)あまりなく、不安は当然かもしれない。とはいえ、私の場合はwikiの中の人とは違って、だからこそ逆説的ではあるが、人員や実績、ノウハウの面で、管理・把握できる範囲でしか政府は脱北者を受け入れないと思う。

 日本が難民条約を批准した1982年から2005年までの難民認定申請数は計3928人、そのうち認定された者の数は計376人、人道配慮による在留が許された者は計381人。但し、この他にも難民条約に加入する以前から受け入れていたインドシナ難民もいる。その実績の内訳は2005年末の時点で、ボート・ピープルが計3536人、海外キャンプ滞在者が計4372人、合法出国者(ODP)が計2669人、元留学生等が計742人、合計11319人。

外務省:難民問題と日本 III −国内における難民の受け入れ−
難民事業本部:難民について知りたい!>日本の難民の受け入れ
難民事業本部:インドシナ難民に関する国際社会の動き(年表)

 むしろ、何万人単位の難民流入を恐れるなら、NGOの脱北者支援と日本政府の難民認定を経て入国する脱北者と、経済制裁で金正日政権が崩壊した後に流入する難民とを比較してみてはどうだろうか。事前に準備された難民受け入れと、極東情勢の変化と国際社会(とりわけ米中)の圧力で承認させられる難民受け入れとの比較。脱北者支援NGOを支援して受け入れる難民の数と、朝鮮戦争のような混乱で発生する難民の数との比較。

 日本版・北朝鮮人権法は経済制裁発動のトリガーにはなっても、脱北者支援は金正日政権崩壊のトリガーにはならないと思う。これまでの日本の難民受け入れ数、人道的見地から国民が受忍できるレベル、政府の管理できるレベル、その他の制限を考えれば、脱北者支援によって金正日政権の崩壊を誘発することまでは難しいだろう。ただ、その場合でも、制裁効果は考えられる。

 北朝鮮人権法における脱北者関連の条項の意義は、個々の脱北者受け入れというより、核問題・ミサイル問題と並んで国際社会に提起される点にあると思う。wikiの中の人は脱北者受け入れのデメリットばかりを殊更に煽っているが、脱北者を受け入れれば、拉致被害者や特定失踪者に関する情報が得られる可能性は充分考えられる。北朝鮮の内部事情について新情報が得られるかもしれない。そういう情報の積み重ねが、北朝鮮側の主張の不自然さを切り崩す材料になる。拉致問題の解決には新情報の入手は不可欠である。wikiからは、そういう拉致問題解決への想いが窺えない。


3.財政的問題について

財政的問題
 今の日本にそれだけ一体いくらかかるとも知れないの難民を保護する余裕がありますか?この法案では脱北者を受け入れありきではなくともしかし、その支援範囲・限度額・見積もり、何一つ出されていませんよ?この法案を恣意的に利用すれば、いくらでも「支援団体」とやらにお金を無尽蔵に補助できるようになりますよ


 wikiの中の人が当初から想定している数に疑問があるので「難民保護に幾らかかるのか?」という疑問には答えようがない。最初から年に何万も発生する脱北者」を想定している人と、私のように数百人くらいを想定している人では見積りが異なる。

 「その支援範囲・限度額・見積もり、何一つ出されていませんよ?」という点について。難民受け入れにあたって、最初から「何人に達したら受け入れません」と宣言するのが目的に沿った手法なのかどうか。一つ一つの申請をチェックして受け入れを判断し、その結果、年毎に受け入れ数が変化するものだと思うのだが。その上で、政府の側にも現実的な許容量というものがあるだろう。

 また、「その支援範囲・限度額・見積もり、何一つ出されていませんよ?」というが、例えば在沖縄米海兵隊基地のグアム移転費用7千億円、それに伴い国内で必要とされる費用2兆3千億円、計3兆円が適正か否かも示されていない。イラク復興支援の限度額や見積りを国民は事前に示されたのか。

 とはいえ、受け入れる国民の側としては、ある程度、数字を示して欲しいというのも道理。説明責任を求めるのは良い。ただ、それでも「無尽蔵に補助」という言葉を見ると、発想の出発点が自分とはかなり違う。北朝鮮人権法は、脱北者支援NGOを日本国が間接的に支援するのであって、日本国が直接的に脱北を手助けする訳ではない。だから、NGOの人員と能力という限界がある。むしろ懸念すべきは、脱北者ビジネスと呼ばれる部分ではなかろうか。


4.国家としての責任について

国家としての責任
 難民を受け入れることは国際的にも、道義的にも国が負う責任ではありますが、脱北者には日本が朝鮮民族の国として国交を樹立している「大韓民国」がありますよ?なのにどうして韓国が受け入れを表明していないのに、日本が受け入れを表明するのですか?また、韓国からの正式な要請はあったのかも疑問です。要請がなければ韓国の国民、労働力を奪っていますよ?立派な「内政干渉」にもなります。最期に、国民へ納得行く説明はありましたか?


 先ず、「韓国が先に受け入れろ」については、韓国は親北政権のため、年々、脱北者が社会に適応するための支援が減っているのは確か。けれど、それは現に脱北者を受け入れているという事実でもある。国連の北朝鮮人権決議案に加わらない点を指摘しているのか。難民受け入れの要件に国交樹立を挙げるのも理解し難い。

 韓国が半島唯一の合法政府という点からの批判については、そのような日韓の事情が国際政治で通用するのかどうか。米国が「悪の枢軸」と呼んだ北朝鮮が、韓国の一部か。北朝鮮の核開発問題は、韓国の一部の核開発問題か。テポドンは韓国の一部から、ソウルや日本側に照準を向けているのか。六カ国協議に韓国と韓国の一部が出席しているのか。

 また、「韓国が先」や「スパイ防止法が先」という反論は、現在進行の人権侵害に対して、余りに無力かつ非現実的な対応だろう。拉致問題では国際社会に助けを求めるが脱北者その他の人権問題では協力しないという姿勢が、国際社会に通用すると本気で思っているのだろうか。「内政干渉」という批判に至っては、社民党・共産党・朝鮮総連と共闘するつもりか。理想論を主張するにしても、拉致問題には被害者家族の寿命という期限があることを忘れてはいけない。

脱北者 - Wikipedia


5.北朝鮮の人権問題関連リンク集

【朝鮮日報:ニュース特集】
(2002年09月19日〜)北朝鮮拉致事件
(2004年10月22日〜2005年05月14日)北朝鮮の人権問題・脱北者

【北朝鮮人権決議案と韓国政府の脱北者支援の関連記事リンク】
(2004年12月07日)朝鮮日報:脱北者定着支援金減らす
(2004年12月23日)朝鮮日報:脱北者の入国審査強化 定着金も3分の1に
(2005年01月19日)朝鮮日報:政府、脱北者への「離散家族再会経費」支援中止
(2005年03月10日)朝鮮日報:政府、脱北者受け入れ基準を厳格化へ
(2005年11月17日)聯合ニュース:国連総会での北朝鮮人権決議案、韓国政府は「棄権」
(2005年11月19日)朝鮮日報:大韓民国の目に映る北朝鮮とミャンマーの人権
(2006年05月25日)朝鮮日報:アムネスティ、韓国の難民政策を批判
(2006年05月25日)朝鮮日報:米亡命脱北者「韓国では脱北者のイメージ良くない」
(2006年06月13日)朝鮮日報:国家情報院に見捨てられたソンさん一家
(2006年06月14日)朝鮮日報:EU議会、北の人権問題を緊急上程
(2006年06月16日)朝鮮日報:「中国に脱北者5万人…昨年5千人が強制送還」
(2006年06月17日)朝鮮日報:北朝鮮人権決議案、欧州議会通過

【追記:関連記事があれば順次追記していきます】
(2006年06月20日)朝鮮日報:韓国、北朝鮮の人権問題を初めて提起
(2006年06月29日)聯合ニュース:脱北者による米国への亡命申請、予想外に低調
(2006年07月02日)聯合ニュース:日本居住の脱北者は100人余り、専門家明らかに

【追記:2006年7月5日ミサイル発射、同月16日安保理非難決議採択以降】
(2006年07月19日)朝鮮日報:【拉致】韓国、拉致被害者支援法の立法化推進
(2006年07月19日)朝鮮日報:北朝鮮、南北離散家族再会事業の中断を宣言
(2006年07月26日)朝鮮日報:【社説】北の口座を凍結し、脱北者を米国に送った中国
posted by sok at 15:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 北朝鮮人権法 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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